番外編一
「本当に行くのか……?」
「……」
圧が強い。
第七特殊消防隊の詰所の前で右腕を紺炉さん、左腕を紅丸に掴まれた私は「だから」と溜息を吐く。
「第八に荷物取りに行くだけだってば」
「だったらウチの隊服でいいじゃねェか」
「その後にランチ誘われてるから」
「せめて足が出てない服にしねェか?」
「と言うか、なんだその服。いつ買った?」
頭を抱えたくなるが、あいにく、両腕を拘束されていて腕に自由がない。
一連の惚れた腫れたの事件が終結した後、彼らは過保護が爆発しており、私の行動への口出しが止まらない。今日はお世話になった第八にお菓子の差し入れと、ついでに女子組の三人とオシャレな店でランチでもしようと言う話になった。お世話になったし私が奢るつもりだ。もちろん、デザートも付けてもらう。
で、なんだっけ。
「服は、これ、第八に居る間に買ったの。向こうで着物だと目立つし」
「……」
「……」
何を言っても、私の腕は解放されない。
セーターと同じ生地、同じ色のタイトスカート。セットアップで簡単だし、と皆で選んだ。「似合う」とマキちゃんを筆頭に女子からは好評だったからおかしくはないと思うのだけれど、何が気に入らなくて拘束されているんだろう。
紺炉さんは足がと言ったがタイツを履いているので素肌は出てない。
「あの、そろそろ離してもらっても……? 遅刻すると申し訳ないし」
二人は渋々と言った様子で手を離し、ようやく私の腕は軽くなった。
くるりと肩を回して踵を返す。
「じゃ、行ってきます」
に、と笑って手を振る。
のだが、また、が、と肩を掴まれて足が止まる。
「ちょっと! いい加減に、」
「どうしても、それで行くってのか?」
紺炉さんが迫真の表情で言うが、どうしてももなにも、もうずっと行くから離せって言ってるのに……。
「何か、ダメですか? この格好。服、かわいいと思うんですけど」
「そのかわいいのがまずいんだよ」
「阿呆なこと言ってないで離して下さい」
吹っ切れたと同時に開き直っている二人は遠慮なしに私を褒めてくれて、それはなんだかんだ言って嬉しいのだけれど、一々顔に出していたら進まないから、気にしていない振りをして繰り返す。
「いい加減離しましょうよ……」
おそらく、だが、着替えたとしても、着替えたんだからもう行かなくていいだろう、とか言ってくる。だから私はあくまで服については譲歩せず、違う手でどうにか納得してもらおうと思考した。
「お土産買ってくるから」
言っても、そんなものはいいからと言わないばかりに手の力が強くなる。
「もう!」
そんなことをされたって、私はこの服で出かけたいし、約束の時間というものがある。二人の言う事に付き合っていたらどうなるかわかったものではない。
「怒りますよいい加減に!」
そこまで言うとまた断腸の思いでという風に手が離れていく。
私は捕まらないように走って二人から離れた。
「あいつ、自分がどういう格好してるかわかってんのか……?」
「ここでああいう格好してる分には、いいんだけどな……」
聞こえたような聞こえないような。
まったくしょうがない二人だ。
お土産はお酒でも買ってくるとして、二人の手が届かない場所でくるりと振り返る。
「紅、紺炉さん!」
大きく手を上げて、左右に振る。
「いってきます!」
二人も軽く手を上げて応えてくれた。
うん。
私はこれで、十分幸せだ。
……だと言うのに。
「……俺の方が、名前先だったな」
「そんなもんに大した意味はねェよ」
「あ?」
「ああ?」
二人の間に火花が散るのを感じて、ひゅ、と鞄に入っていたペンを二本投擲した。
かつーん、と見事に二人の額に当たる。
「喧嘩しない!」
こんなことをしてるから、十分も遅刻してしまった。
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