お節介なのは知ってるけど/パート


こういうの、バイリンガルって言うんだったかな。いや、ちょっと違うか? 今日もなまえさんが見事にパート中隊長の笛語(これもおかしいか?)を訳していく。
付き合いが長くなれば大体わかるのだけれど、なまえさんは一番わかっているんじゃないだろうか。だから、急いでるのに笛鳴らされただけで終わった時なんかは、こそりとなまえさんに聞くと教えて貰える。

「ピピーーー」

なまえさんは笑顔だが、そうして中隊長に話しかけられると、一瞬相変わらず阿呆みたいだな、という顔をする。口に出さないのは、それを訳してしまう自分も大概阿呆だと思っているからだろう。

「ああ、それね。終わってる。もう大隊長に書類渡したし、印鑑押す所まで確認してるよ」
「流石だ」
「はいはい」

と、まあこんな調子だ。……ただ、俺は最近どうにも気になることがある。中隊長がなまえさんに並々ならぬ感情を持っていることは(当然だよな以心伝心みたいなもんなんだから)周知の事だが、それが、肝心のなまえさんに欠片も伝わっていないことだ。
それどころか、その感情から来る笛は、なまえさんには理解できないらしく。俺でもわかる言葉が全く届いていなかったりする。
恋ってのはこんなもんなのかな、と見ているのだが、今日も。

「ピーピーピッピピ、ピピピピ」

ああこれはもう表情でわかる。今日この後、飯でもどうだ、なのだが。
なまえさんは首を傾げて、(しかし、何かに誘われているらしいことはわかるみたいだからすげえ)何を言われているかわからないまま答える。

「帰って読みたい本あるから」

また、にべもなく断られていた。ピヒューーーと、なまえさんのいなくなった空間に笛の音とも風の音とも取れない寂しい音が吹いていた。
中隊長となまえさんは似合いだと、出来れば上手くいって欲しいと思っている俺は堪らずなまえさんを追いかけて呼び止めた。「なまえさん!」

「オグン……? 何か用事?」
「いや、用っていうかなんていうか……、その、さっき中隊長が何言ってたかわかりましたか……?」
「わかんない。なんかに誘われた気はした」
「えっと、その、わかんないままでいいんですかね……?」
「ああ、わかんないことはいつも大抵どうでもいいことだから大丈夫。本当に緊急なら分からない顔された時点でちゃんと言い直すでしょう」
「なるほどなあ……!」

感心している場合ではない。ええっと。だから、そうじゃなくて。

「なんて言ってた? その口ぶりだとオグンはわかったんだよね?」
「あっ、いや、わかっ、わかったんですけど、俺の口から言うのは、ちょっと……」
「なんか面倒くさそうだね。ごめんね、気を使わせて」
「いや、まあ、俺が勝手にやってるって言うか……」

そうだ、俺が三人で食事をする約束を取り付けて、で、約束の日にやむを得ない感じの理由で抜けるのはどうだろう、そうしたら、なんかこう、もうちょっといい感じに……。

「ピーーーーッ!」

……仲良く話しているように見えたみたいで、遠くから呼ばれている。なんであんたが邪魔するんだ……「呼ばれてるよ、オグン」「はい……」呼ぶべきなのは俺じゃねえだろ……。


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20191118:伝えたいことは伝わらない話

 

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