001/ジョーカー、リヒト


私の世界はどんどん広がりを見せている。何も知らない何もわからない奴隷のようなものだったのに、ジョーカーと一緒に逃げてきてからは以前とは比べ物にならないくらいに自由で快適になった。ジョーカーはそうは思っていないようだったが、私にとっては随分マシだ。
憂さ晴らしに暴力を振るわれることもなければ、何が面白いのかガリガリの体の中に突っ込まれて鳴かされることもない。
あの時の楽しみなんて、時々来て色々話を聞かせてくれるバーンズさんの存在か、誰もいない時にふらりとやってきて何もせずに一緒に眠ってくれたジョーカーの存在の二つしかなかった。

「僕と第八特殊消防隊に入らない?」

と、最近随分私の面倒を見てくれるようになったリヒトくんは言った。なんでもいろいろよく知っているリヒトくんと私は、歳が同じらしいけど、兄妹のようなものだ。巫山戯てお兄ちゃんと呼んだら「……思ったより悪くないなあ」と笑っていた。

「第八……、ああ、えっと、特殊消防隊……、あの、あれですね……、ジョーカーが最近よくちょっかいかけに行ってる……。……え、私、なにか役に立てるんですか?」
「僕の助手兼用心棒っていう体でね、どうかなと思って」
「……、え、役に立ちますか……?」
「少なくとも僕は、君に足を引っ張られることは無いと思ってるけど」

リヒトくんらしい答えだ。という事は、つまり私がリヒトくんの役に立つ立たないはあまり関係がないのかもしれない。
私は少し真剣に考えてみる。消防官。リヒトくんの助手兼用心棒。ろくに戦えないと思うのだが、まあ戦力として期待されているという事でもないのだろう。んん、と。

「ジョーカーは、なんて?」
「好きな方選べばいいってさ。でも、近くにいると無意識に誘導しそうだから帰るまでに決めさせとけって。勝手だよねえ」
「ああ、でも、決定権はあるんですね」
「そりゃね。ジョーカー、君のことが大好きだし。本当はずっと手元に置いておきたいんじゃない?」
「……でもきっと、そういう話でも、ないんですよね」
「まあね。一応僕とジョーカーの中では、僕と消防官になった方が君のためになるんじゃないかって話にはなってる」

君は、ジョーカーと違って皇国に指名手配されている訳じゃないし、とリヒトくんは続けた。

「んん……」

これ資料ね、と渡された第八のメンバーの写真を見る。みんな、私達が元いた場所とは全然顔つきの違う人ばかりだった。同年代くらいの女の子もいる。そして、きっと、消防官になる、という事は、職を得るということだから、いくらか自分で稼ぐことが出来るということだ。ギャンブルとかでお小遣いを稼ぐことはあったが、それとはまた違うのだろう。住むところもひとつに決まる……。世界のことももっと知ることが出来るだろう……。ただ、第八に入っても私は私だから、いざと言う時にリヒトくんとジョーカーを第一に考えることになる、のか……? リヒトくんの言い方だと、私にそこまで求めていないようだけど。ただ。
ただ、確実に、ジョーカーとは、簡単には会えなくなる……のか……。
……。

「うん」
「え? もう決まった?」
「リヒトくんと行きます」
「えッ? ほんとに?」
「ええ……? もしかして嫌でしたか」
「ううん。いいんだけど……」

私はぐっと両拳を握って上を向く。

「初任給貰ったらご飯奢ってあげようと思って」
「あー、そういう……」
「もちろん、リヒトくんにも」
「僕も? ありがとう……、じゃなくて……、ごめん、誘っておいてなんだけど、なんで?」

もちろん、私も今の生活を手放すのは怖いし、知らない人と話が出来る自信もない。ただ、このままジョーカーにくっついていくのも自主性のない話だ。折角誘ってもらったなら、少し寂しい思いをすることになっても、挑戦してみたい。
ええと、言葉にすると、どうなるかな。
ああ、きっとこうだ。

「今のところ、私の生活はジョーカーに頼りっぱなしですからね。……今度はリヒトくんに頼ることになるのかもですけど……、職を得るのはいい事な気がして!」

努めて明るく笑ってみせると、リヒトくんもニッと笑い返してくれた。

「……うん。よし、わかった! じゃあ書類偽装して設定考えるからジョーカーが帰ってきたら作戦会議しようか」
「お願いします!」

新しい生活が始まる。


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20191117:なんとなく原作に沿わせてしまう…

 

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