妹に近い/リヒト


ある時、なまえはどこからか入手した鉱石の図鑑を眺めていた。あまりに熱心に見ているので、研究所からあまり希少ではない鉱石を持って帰って机にばらまくと、ぱあ、と目を輝かせて、「触っていい?」と聞いた。その後、僕がいいよと言うのを待ってから手の中で転がしたり、光に透かせたりしていた。
あまりに熱心で楽しそうだったか、つい。

「もっと見たい?」
「……見れるんですか?」
「うん。鉱石博物館とか」
「へえ……、博物館」

宝石が見たいなら展示会なのだろうけれど、そっちはやや面倒そうだ。人が多いのも、なまえは疲れてしまうだろう。

「一緒に行こうか」

僕は、小さな子供でも誘うみたいにそう言った。同じ歳の女性だと思っていたらこうはいかないな。なまえはまたばっ、と顔を上げた。さっきより目が輝いている。喜びの表情に幅がありすぎて笑ってしまう。

「今日、僕とで良ければ、だけれ、」
「行きたいです!」

最終的には手まで上げて、前のめりに言った。ジョーカーには申し訳ないけど、こういうところが、やはりかわいい。
危ないから、と手を差し出せば握ってくれそうな、デートだねと言えばそうだと笑ってくれそうな、始終そんな雰囲気で、なまえは展示品を食い入るように見つめていた。なまえの後ろでなまえが熱心にしているのをみていると、時々思い出したようにこちらを振り返って、「リヒトくん、これ、見て下さい」と僕を呼ぶ。
完全に忘れていてくれればいいのに、そんなことをされるから、もし後ろにいなかったら寂しい思いをするのだろう、などと思ってしまって離れられない。ジョーカーも、はじめはそうだったのかもしれないな。
休憩と称して、博物館内のレストランで軽食を食べさせると、なまえは「私は一体何を返せば……」と震えていた。その様子があまりに面白かったから。

「これも。記念にプレゼントしちゃおう」
「……あ、」

あ、あ、となまえは震えながらミュージアムショップのテープが張り付いたままの色気のないプレゼントを受け取った。
じ、となまえはそれに視線を落とす。
あ、ああ、と、まだ震えている。

「ありがとうございます……」

鉱石の付いたブックマーカーを、なまえは帰るまでずっと見つめていた。
なにかお礼を…としきりに言うなまえを「考えとくから」と納得させた。ジョーカーはまた拗ねるだろうなあ。



案の定、ブックマーカーを熱心に眺めるなまえを見つけて、僕に詰め寄ってきた。

「デートじゃねえか」
「違うって」
「あと餌付け」
「違うったら」

しばらく絡まれていたのだが、なまえがきょとんと言った一言で、ジョーカーはすっかり大人しくなった。

「でもジョーカー、この前テレビみながらデートぐらいでガタガタ騒ぐなよ、って言ってましたよ」
「……言ってねえ」

言わなかった? 言ってねえ。
なまえはだんだん不安になってきたのか首を傾げながら、自分の記憶を疑い始めた。

「あれ……、そうでしたっけ……」

僕はとうとう耐えきれなくて、椅子から転げ落ちそうになった。

「ふ、ぷふふッ、」
「笑ってんじゃねェぞ諸悪の根源」

ブックマーカーのせいでバレてしまったけれど、嬉しそうななまえを見て、そう責められることは無かった。「俺ともデートしてくれよ」と拗ねたように約束していて、なまえは、僕が誘った時とは違う笑顔で頷いた。心配することなんて、やっぱりないのになあ。


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20191114:いいいしの日でごわす

 

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