オマツリ/ジョーカー


最近なまえがリヒトに懐いている。いや、わからない。リヒトがなまえを甘やかしているのかもしれない。アイツめ。なまえは俺が十分甘やかしてるってのにその上から更に甘やかすんじゃねェよ。リヒトくんリヒトくんと、俺とは違う距離感で、同じ年の兄貴でもできたみたいに慕っている。
今日もなにやら菓子を貰って帰ってきていた。

「ジョーカー、これ、これ知ってます?」
「ん? 菓子じゃねェか」
「このポッキーってお菓子をね、こう、二人で両端から食べていくゲームがあるらしいです。で、今日はそのゲームをして遊ぶ日なんだそうですよ。通称、ポッキーの日」
「なんだそりゃ」
「わからないけど」
「まさかとは思うが、誰かとやったか?」
「? 誰かとって、やるとしたらジョーカーかリヒトくんしかいませんけど」

ぱき、となまえが口にする菓子がやけに美味そうに見えて、そのゲームとやらをやってみることにした。端から食べていく? それは菓子だけでなく最終的にかなり美味しい思いができるんじゃねェか? なまえはこんな調子だし、例えキスすることになっても絶対にきょとんとして「これでいいんですかね?」なんて首を傾げるだろう。
もし、万が一、照れて顔を隠す、なんてことがあれば激熱だが、それはきっと、まだ無理だろう。

「……よし、一本寄越しな」
「どうぞ」
「あいつの期待を裏切っちゃあ悪いからな、やってやろうぜ」
「ああ、やってみるんですね」

なまえはやはり無防備にぼうっとしていやがる。いつものように脇に手を突っ込み持ち上げる。「よっと、」ソファに座った俺の上に座らせて、俺がポッキーを咥えてなまえを待つ。

「いいですか?」
「いつでも来い」

顔の横に垂れていた髪を耳に掛けながら、なまえもぱくりとポッキーの端から食べ始める。うーん、期待通り、警戒心も羞恥心も欠片もない立ち回りだぜ。そして案の定、どれだけ顔が近くなっても顔色一つ変えないで、最終的に、唇同士がくっついてもやはり、いつも通りであった。それどころか、やや不満気な顔をして。

「これは、これで、いい、んですかね……? どっちが負けなんでしょうね?」

と、これまた予想と寸分違わない事を言い出した。
ここまでは予想していた。「さァな」とやめにしても良かったのだが、折角の機会だ。起きてるなまえの唇を堪能させてもらうことにするかな。

「そりゃあ、先に照れた方だろ」
「なら今の勝負は?」
「引き分け」
「……なんか、不健全な香りしません? 本当にこんなゲームをそこかしこで……?」
「さあ、世間様のことはわからねェな。おら、もう一回だ」
「エ」
「引き分けってのもあれだろ。折角はじめたゲームだぜ。勝ち負けハッキリさせようじゃねェか」
「ええ……、うーん……、うん」

チョロすぎて心配になってくる。
しかしこれは、俺だから、なのであって、他の人間にはちゃんと警戒心を持って接している。一応追われているのだから、そうでなければ困る。実際、どれだけ外に出ても、どこに連れて行ってもなまえは上手くやっているから、何の問題もない。
二本目を咥えて、またなまえを待つ。

「ん……」

正直、顔が近くなると、俺はポッキーなんざどうでもいいから、その唇に噛みつきたくなるのだけれど、腹に力を入れてぐっと我慢する。
二度目のキスでは決着はつかなかった。

「……」

三本目が始まる。
流石のなまえも徐々に甘くなっていく空気が気になるのか表情が曇る。
「なんか不健全」とこいつは表現した。ならばきっともう少しだ。

「っ、」

四本目はやや躊躇いを見せたが、結局始まってしまって止まらない。
ここで、俺はわざと、ちゅ、と音を立ててやると、なまえの肩がぴく、と震えた。
顔を離すと、今度は俺が固まる番だった。
いや。
いやいや。
そう、なりゃいいとは思ったし、
そういう反応になるように仕向けたが。

「……」

なまえは顔を赤くして俺から目を逸らした。

「……私の、負け」

言いながら、俺の肩のあたりに顔を押し付けている。
俺は冷静な振りをしたまま「ハハ、なかなか面白いゲームだったぜ」などとなまえの頭を撫でた。……。
……ポッキーの日、万歳。


--------------
20191111:ポッキーは善戦したんだけども。えろには勝てなかったんだね……。ところで今から最悪なこと言うんだけどぽっきーて勃起と語感似ててとんでもない下ネタ捻じ込めそうだったよねって……、しなかったけど……。

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -