これも協力だったはず/紅丸


なまえは俺が抱えている包帯やら抑制剤やらを見て、極めて軽い調子で自分を指さした。

「私が替えましょうか」

その言葉を聞いて、まず、うちの大将の不機嫌な顔が思い浮かぶ。見つかったら間違いなく後から蹴られそうだし、ついでに舌打ちくらいは飛んでくるだろう。しかし、そういうあいつを見るのも貴重で面白いかもしれない。
あまり面白がるのもよくないが、もしかしたら、(少なくとも俺にとっては)分かりやすく俺に妬く姿をなまえが見れば、なまえも紅から向けられてる感情に気付くかもしれねェ。そうなれば後は若い奴らに全部任せて俺は席を外してやればいいわけだ。よし。

「そうだな、頼めるか」
「任せて下さい」

なまえは俺たちの半分くらいしかない腕を曲げてポーズを決めてから、俺から包帯を受け取った。この細腕で腕っ節はその辺の男共より断然あるのだから不思議である。

■ ■ ■

火傷や怪我の治療を手伝う姿も見かけていた。器用なのは知っていたが、「ちょっと冷たいですよ」だとか、「包帯このくらいで大丈夫そうですか」だとか、男連中にはない甲斐甲斐しさで尽くされて、胃のあたりがやや疼く。つまり想像よりずっと照れる。のだが、なまえは至って通常通りだ。

「……痛みませんか?」
「ああ。上手いもんだな。若より手際もいいんじゃねェか?」
「あはは、ありがとうございます」

それだけではない。柔らかい、平均よりもやや冷たい指先が時々肌に触れる。妙なざわつきを誤魔化す為になまえに声をかけておく。

「どっかで習ったのか?」
「そこまでのものじゃありません。私自身がここに来る前までよく怪我してましたから、それで、ですよ」

思い出されるのは、尋常ではない程傷だらけのなまえを抱えて詰所に走り込んできた紅丸の姿だった。そのまま放置していれば死んでいたかもしれないところを、紅丸が拾ってきた。
いつだかの話の流れで生まれが浅草であることは判明しているが、事情を聞いたことは無い。本来ならば素性の知れないやつを置いておくべきではないのだが、なまえは、なまえという女は、あまりにも無害に笑うものだから、自然と俺と紅は口裏を合わせて「心無いやつがいるもんだな」と単に悪漢に酷くやられたのだと言う風にしてしまった。聞くなと言われた訳では無いが、語りたいようには見えなかった。

「なあ、その、ここに来る前までってのは、」

その話は今するべきではない、と神だか仏の計らいだろうか、質問を遮るようにがらりと扉が開けられる。こんなに無遠慮なのはヒカゲかヒナタか、いいや、随分静かにやってきた。これは。

「おい、紺……」

若。となまえが顔を上げる気配がした。その若は状況の理解に頭が追いつかずに固まっている。「なにしてる」「見ての通りですよ、なまえが包帯替えてくれるっていうんで。いつも若にやらせるのも悪いでしょう」「……」みるみる機嫌が悪くなるのは、後ろにいるなまえにもわかるようで、途端、体に触れる手がぎこちなくなった。普段から低めの体温が、更に低くなっていく。遂には冷却布と同じくらいに冷たくなった。
俺は理由がわかるからいい。例えば部屋で二人きりだったことだとか、手当をされていることだとか、親しげ(実際親しいのだが)に話していたこと、それからそうだな、なまえがこの状況で、遠慮も照れもない所、とかも引っかかっているかもしれない。
ただ、なまえはと言えば必死に、若の機嫌を損ねた理由を考えている。
なまえの手がそろりと離れる。やたらとゆっくりした動作で体も離し、おずおずと包帯を片付けながら、なまえは「あ」となにかに気付いて声を漏らした。

「あ、ああ、ごめんなさい。そうですよね、すいません、紺炉中隊長との貴重な時間を……、次からは軽率に名乗り出ないようにします! では、失礼しますね!」
「あ?」
「ぶはッ」

そそくさと部屋を出ていくなまえの背に、紅丸から、そうではない、と言葉がかかることはなく。余程予想外だったのだろう、殴るでもなく蹴るでもなく「フツウ、そんな思考になるか……?」と俺に聞く始末であった。


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20191013:若は怪我も病気も滅多にしなさそう。

 

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