攫わないでね/ジョーカー


「おかえり」
「おう、ただいま」

ジョーカーからタバコの匂いと、嗅ぎなれない甘いような匂いがしている。前の香水とは違う。

「なまえ、ちょっとこれ着てみろ」
「……? なにこれ?」
「服と靴」

真新しい服の匂いと、デパートかなにかの匂いだったらしい。私は「ありがとうございます」と受け取るけれど、また服なんてどうして、と首を傾げる。

「必要なら手伝ってやるが……」
「そんなに複雑なやつ買ってきたんです?」
「いや。被って履くだけだ」
「リヒトくんもだけど、私を赤ちゃんか何かかと思ってるところありますよね」
「一人で出来るのか。エライエライ」
「……着替えてきます」

機嫌が良さそうだ。ギャンブルではよく勝ったし、どこかの店でも彼の気分が損なわれることがなかったらしい。楽しそうなのは良いのだが、少し中身が怖い。
……。
本当に、ただのセーターとパンツ、それからヒールの高い靴だった。えーーーーっと、セーターの方は淡い青色で、やや余裕のある形をしている。でも丈が短めで、これにこのタイトめなパンツを合わせると……? いつだか雑誌で見た下半身のシルエットが強調された格好になるのかな。靴もヒールだから脚が長く見えたりする、というような……?
普通だ。

「ジョーカー、」
「お、着れたか」
「うん、多分ぴったり」

かつ、と歩く度に音がするのが気になるが、ジョーカーは鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で「どれどれ」と近寄ってくる。

「ハハハ、いいじゃねェの」
「いい?」
「似合ってる。流石は俺だ」
「ん、ありがとうございます」
「どういたしまして」

ジョーカーに腰を抱かれて、そのあと自然に手が私のお尻へと落ちていった。「セクハラだ」「愛情表現」と言い合いながらも私はふわふわとジョーカーに撫でられ続けている。セクハラかそうでないかはやられてそう思うかどうかなのだと、最近気づいた。

「髪もやりたくなるな」

ジョーカーは私を抱き上げて腕に乗せる。ただの普段着なのだが、綺麗な人形にするように大事に持ち上げられた。

「今日はまた、どういう風の吹き回しで?」
「いや? 俺は割といつでもお前を着飾ってやりたいと思ってるが? 荷物になるから増やさねェだけで」

なんと。そうだったのか。

「それなら……、私も、なにか」

ハハハとジョーカーは可笑しそうに笑う。何が面白かったのかはわからない。なにかあげられたらいいのだけれど、と続くはずの言葉を飲み込み、ジョーカーに持ち上げられていた。

「靴、いいだろ」
「うん? ん、んん、かわいいし、思ったほど履きにくくないです」
「そりゃよかった。結構いい靴だからな。もうお前のもんではある訳だが、あんまりはしゃいで泥だらけにすんじゃねェぞ?」
「私……、泥なんかで遊……あ、いや……はい……」

ジョーカーはまた楽しそうに笑った。なまえが、リヒトに教えられて一心不乱に泥団子を作っていたのを思い出したのと同じように、全く同じ日々のことを思い出したに違いない。

「……どこで遊んでても、帰ってこいよ」

私はじっと、ジョーカーを見つめた。

「まあ、どこに居ても、迎えに行ってやるんだけどな」

いつの間にか、ジョーカーの手のひらは、私の胸の当たりにある。

「その言葉は、ひょっとして……、私の胸を触ってなければ相当カッコイイんじゃ……?」
「俺はいつでもカッコイイだろうが」

最近ジョーカーだけでなく、リヒトくんまでやるようになったこれ。頭をぐしゃぐしゃと撫でるのを、ジョーカーにお見舞した。
特に抵抗はされず、手が止まると視線をこちらに上げて、珍しく邪気のない顔で笑っていた。きゅん、と音がした。かわいいほうだと思うのだが。
……。

「ウン、ソウダネ」
「オイ、お前今かわいい方だとか思ったろ」

バレるなら、本当のことを言えばいいかと「かわいいよ」と褒めると「嬉しいわけねェだろ」と言われた。だから言わなかったのに。


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20191109:実はセクハラさせるの大好き芸人だから…(これはいい靴の日の話…のつもりだった…)

 

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