大雨事変・後/紺炉


なまえはしばらく緊張している様子だったが、夕飯の漬物にいたく感激し「俺が漬けたんだぜ」と言うと大袈裟に目を輝かせて「へえー!」すごい、と感動していた。
それでだいぶ緊張がほぐれたみたいだったのだが、風呂に入って紺炉の部屋に入り、布団が並べられているのを見てまた挙動不審になっていた。
どう振る舞うのが正解か、を探るなまえに対して、紺炉はと言えば、こちらもこちらで、どこまで良いのか測りかねていた。状況的にはどこまででもいけてしまうのだが。
それはともかく。

「……なまえ」
「ん! あ、はい!?」
「そう畏まるなよ。とりあえず、若に内緒でとってあるこいつで一杯どうだい」
「わ、いいんですか。頂きます!」

文机の下からずるりと引き出した一升瓶が、とぷん、と音を立てた。



「日本酒って初めて飲みましたけど、美味しいんですね」
「だろ。気に入ったんなら何よりだ」

今度お土産に買って帰ろうか、なまえは思うが今は言わない方がいいかと口を噤んだ。
アルコールを入れると流石のなまえも緊張状態をたもつのが難しく、いつもの調子でふわふわと笑っている。
隣で気持ちよさそうにする、なまえのつややかな髪を手のひらで撫でる。なまえは一度ぴくりと震えたが、酒の力か元々の潔さか、雰囲気のままするりと紺炉の手に擦り寄った。
お互いいい大人で、恋人同士でもある。拒まれないなら止める必要は無い。

「……」

じっと見つめると、なまえの潤んだ両目とかちりとぶつかる。同じ熱と同じ期待とを共有した。多少の不安は酒が溶かしてくれたに違いない。極上の甘いものを分け合う様に唇を合わせる。日本酒を飲んでいたからぴり、と痺れてさらに酔う。

「ん、」

二、三度触れるだけの口付けをして、少し離れて目を合わせる。今すぐにでも押し倒して着ているものを剥ぎ取って、なまえの素肌に触れたい衝動に耐えながら、今度は深く深く唇を合わせる。
心が先行してなまえと交わる。解くように口の中を犯す。「ふ、」と誘うような甘い声が漏れ出している。「んん、っ、く、あ、こ、こん、ろさん」なまえは一度離れて「くるしい」と。

「……!」

口の端からつう、とどちらのものとも分からない唾液が垂れた。上気した頬、普段より柔らかそうな体を捻って、溶けかけた目で見上げられる。
ごく、と唾を飲み込むが、苦しい、と言われた手前、ただでさえ余裕なんてないがっつきようなのに、これ以上格好悪いところは見せられない。一度体を抱きしめることで休憩とした。
しばらく、お互いの心音と、荒い、息の音だけが聞こえていた。
もうすっかりそういう流れだったけれど、わずかながら取り戻した落ち着きを翳してぽつりと言う。

「なあ、お前さんさえよければ今日はこのまま……」
「……」
「なまえ……?」

まさかと思い、体を離してなまえを見る「!!!!」体から力が感じられない。

「すー……、すー……」
「嘘だろ!!!?」

酒の力なんかに頼ろうとしたのが、いけなかったのかもしれない、と紺炉はあまり眠れなかった。


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20191109:「……すいません、いつもはこんなことないんですけど……」「いや、慣れねえ場所に一日いたしな、疲れてたんだろ」「つ、ぎは、きっと、よろしくおねがいします……」「……言ったな?」

 

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