仲良くなりたい


「へえ。そうか。食事に。同性というのはそんなものか。一度や二度顔を合わせただけでランチに? それなりに盛り上がった? 次の約束までしたのか? そうか。それはよかったな。今朝も楽しそうにしていたし、何よりだよ。俺に気付かないくらい白熱していたな。おかげで俺はなまえからの挨拶を貰えなかったわけだが。どう責任を取るつもりだ? 日々の活力だぞ?」

私はどうにかこの無意味な時間を耐える為に自分の薬指についている指輪に触れた。なまえというのは数日前に私や、大黒部長と同じ部署に配属された女性の社員である。実際は、社内でも仕事ができるし腕も立つと評判の彼女をあの手この手を駆使して引き抜いて来たというのが正しいが。それはもういいとして、大黒部長は厄介なことになまえさんがあらゆる意味で欲しいらしく、唯一同性である私をけしかけて情報を得ようと必死である。自分で行ったらどうですか。私が言うと、お前は馬鹿かと呆れられた。

「他の男がもう既に何人か断られているのを知らないのか? 情弱め。そんなところに無策で俺が行ってもどうにもならないことくらい予想がつくだろう。なに? 無理矢理連れていけばいい? パワハラだそれは。訴えられるくらいならいいが嫌われたらどうしてくれる? まあそんなわけだから俺から誘うことはない。お前は狙い通りかなりなまえと仲良くなったようだし、一度聞いてみてくれ。なまえとお前と俺の三人ならどうか、もう聞いた? やるじゃないか。それで? なんだって? 自信がない? それはどういう意味だ? 『あの大黒部長と長時間同じ空間に居る自信がない』? お前きっちりフォローをしたんだろうな?」

していない。「わかる」と力強く頷き、大黒部長には気を付けた方が良いとまで言った。しかし、そんなことを言ったらとばされるので「フォローしましたよ。もっと大勢ならなんとかなるかもしれないと言っていました」言っていないが、歓迎会を開いたとして、断るような子ではないだろう。最初の一回目くらいは、と頑張る子だと私は思う。それ以降はわからない。私はさっさとこの状況から抜け出したかったので、今まさに閃いた『歓迎会』について話をした。

「なるほどな。合法的に、彼女の酔った姿が見られる、と。ついでに部長としての俺の度量の広さもアピールできるわけだ。よし。さっそく手配しろ。予算? 彼女の好きな食べ物でも聞いて適当にやっておけ。俺はお前のことをそれなりに信頼しているしな。なにより君がやるほうがなまえが断り辛くなるだろう? 日程? 後で候補日をメールしておいてやるからその中で適当に決めろ。わかっていると思うが彼女が来られないんじゃ意味がないからな。他に要望? そうだな。座席の移動が楽な店がいい。気軽に俺が隣に行けるようにな。ふふ。楽しみになってきたな。酒の席でさらりと食事の約束を取り付けるのもいいな。よしよし。お前、いつまでそこに突っ立っているつもりだ。さっさと仕事に戻れ。優先順位はわかっているな?」

イエッサーボス。私は大黒部長よりもなまえさんの方が好きなので、なまえさんがお酒は一滴も飲まないらしいことは教えなかった。聞かれていないし、まあ、問題ないだろう。せいぜい今の内に酒の勢いを期待して邪まな妄想をしておくがいい。


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20210322がんばれ

 

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