ボツになった話


クチアシさんの色々なぶちょーの夢小説のボツになった方の話をなんとなく供養します…。↓こんな感じで始まる予定でした。

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「目が覚めたのか」

知らない声だと思った。
薄く目を開けると、天井も壁も布団も、知らないものだと気付く。分かりやすく真っ白だから、病院なのかもしれない。何故ここにいるのか、そもそも、私は一体。

「よかった」

顔を覗き込まれて驚いた。さっきの声の人だが、やっぱり見覚えがない。しかし、こちらに見覚えがないだけで、彼は私を知っているらしく愛おしそうに名前を呼んでこちらに近づいてくる。「本当に、」

「本当によかった」

その人は涙を流していたし、声も震えていた。いかにも劇的な再会であるかのようなのに、私の体はどうしてか、強ばって震えている。彼はそれに気付くと直ぐに離れて「すまない、怖がらせるつもりはなかったんだが」と頬をかく。
私は距離ができたことに安心して、どうにか言葉を発することが出来た。

「あなたは誰、ですか」

彼は寂しそうに目を細めて、それでも気丈に振舞おうと口元はしっかり笑顔だった。
私がしたこの質問は、予測済みであったらしい。彼にとって予想外のことが起きている、わけではないようだ。

「俺は大黒と言う」

「大黒さん」私が繰り返すと「そうだ」と心の底から嬉しそうな笑顔になった。感情表現が豊かな人だ。私は覚えていないけれど、私のことを心配してくれている風でもある。知らない仲ではなかったのだろう。

「まだ俺が怖いか?」
「えっ、は、い、すこし」
「そうか。まあしかたがない。本当は話したいことが山のようにあるんだが、今日は帰ることにするよ。君はゆっくり休んでくれ」

大黒さんは私が何者であるか、だとか、自分はどうしてここにいるのか、だとか、そういう説明は一切せずに部屋から出ていった。
私は部屋の中を少し歩いてみようと体に力を入れるのだけれど、ふと、手を見ると大きく震えていて、指先もとても冷たかった。

「大黒さん」

大黒さんがどういう人かは知らないが、私にとって、とてもとても怖い人だという事は確かだ。

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っていうはじまり方する予定でした…。

主人公はずっと病室にいるんですが、色んな大黒部長の夢を見て、随分今と様子が違うな、と思って部長に話すと「思い出したのはそれだけか……?」とかなんとか。「いいか。その先は思い出してはいけない」「絶対に」で、押さえつけられて薬飲まされてまた記憶全部飛ぶ…って話でした…。「まだ薬の効きが浅いな」「次はもっと……」記憶飛ぶ時に精神を汚染されてる恐怖感なのか幻覚見るのかとんでもなく苦しむせいで、部長がそのトリガーになっているので部長見ると、怖くてしょうがなかった…的な…。

で、こんな感じで終わる予定でした…↓

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「目が覚めたのか」

知らない声だと思った。
薄く目を開けると、天井も壁も布団も、知らないものだと気付く。分かりやすく真っ白だから、病院なのかもしれない。何故ここにいるのか、そもそも、私は一体。

「よかった」

顔を覗き込まれて驚いた。さっきの声の人だが、やっぱり見覚えがない。しかし、こちらに見覚えがないだけで、彼は私を知っているらしく愛おしそうに名前を呼んでこちらに近づいてくる。「本当に、」

「本当によかった」

その人は涙を流していたし、声も震えていた。いかにも劇的な再会であるかのようなのに、私の体はどうしてか、強ばって震えている。彼はそれに気付くと直ぐに離れて「すまない、怖がらせるつもりはなかったんだが」と頬をかく。
私は距離ができたことに安心して、どうにか言葉を発することが出来た。

「あなたは誰、ですか」

彼は寂しそうに目を細めて、それでも気丈に振舞おうと口元はしっかり笑顔だった。
私がしたこの質問は、予測済みであったらしい。彼にとって予想外のことが起きている、わけではないようだ。

「俺は大黒と言う」

「大黒さん」私が繰り返すと「そうだ」と心の底から嬉しそうな笑顔になった。感情表現が豊かな人だ。私は覚えていないけれど、私のことを心配してくれている風でもある。知らない仲ではなかったのだろう。

「まだ、俺が怖いか?」
「えっ」

頷きそうになった首がピタリと止まった。大黒さんの底の見えない目を見ていると呼吸が止まりそうに怖いのに、怖いと思ってはいけない気がした。その感情は、いや、どの感情も、彼の前では見せるべきではない、ような。

「……いえ」

必死の思いでそれだけ言った。

「そうか!」

大黒さんは私の手をぎゅっと掴んだ。震える余地がないくらい強く、冷えた指先が溶けそうなくらい熱い手のひらだった。

「そうかそうか! まあ当然だな。俺は君にとって都合がいいだけの人間だしな! 怖がられる要素などひとつも無かったんだ! はじめからな!」

大黒さんは私を強く強く抱き締めて、そう言った。このままではまずい、気がする。けれど、理由は分からない。なにがどうまずいのだろう。この人はきっと教えてくれない。ならば、だれか。いいや、でも。まあ。
まあ、いいか。
長く寝ていて疲れているのだろうか、深く考えるのが面倒で、私はそのまま目を閉じた。

「ようやくここまでこられた!」

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お前マジいい加減にしろよあんなにかわいいイラストから地獄を作り出すなと正気に戻ったのでボツになりました。ちなみにこちら側の話のタイトルは「うさぎとかめ」です。
主人公の人生を止めておくことで無理やり追いつく努力家な部長の話でした。

こんなもん読んで頂いてありがとうございました…クチアシさんすいません…(土下座)本当にありがとうございました…!

20210123

 

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