地雷型起爆スイッチ/部長vs黒野


この話の続きです。

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「なまえさん」
「おつかれさま。それじゃあね」
「なまえさん」

なまえさんと付き合い始めて一週間が経過したが、この人は案外照れ屋なようで、職場で俺と話をするのを嫌がる。今も挨拶だけで去って行こうとしたが、咄嗟に俺が進行方向に足をついて彼女を止めた。もう少しくらい話をしてくれてもいいはずだ。何せ俺はこの人の恋人なのだから。

「……黒野くん。どいて」
「嫌です」
「退け」
「そんなに照れなくてもいいでしょう」
「その古典的なボケやめてくれる……?」

黒野くん、と言うのも他人行儀だと抗議するのだが「じゃあ君は黒野くんじゃないのか」と言われると黒野くんには違いない。せめて頭に「私の」だとか「大事な」だとかそういうのをつけてくれてもいいのではないだろうか。いや、こういうのは俺からはじめなければいけないのかもしれない。きっとそうだ。そうしたら、彼女もやりやすくなるに違いない。

「俺の大事ななまえさん」
「鳥肌がたったやめておねがい」
「俺のなまえさんからのおねがいと言えど、それは聞けないな」
「本当に君は本気でそうだと思ってる分大黒くんより質悪いね」
「今部長の話はいいでしょう」

「別に好きで大黒くんの話をしてるわけじゃない」なまえさんは大きく溜息を吐いた。それはわかっている。「なまえさんが好きなのは俺だからな」うんうんと頷いていると「好きではないが?」とげんなりされた。これが部長ならわざわざ落ち込んだのだろうが、俺はなまえさんのことをずっと見てきたのでよくわかっている。その言葉が照れ隠しであることくらい、お見通しだ。

「本当、本当にいい加減にしない?」
「それはつまり、結婚しようってことですか?」
「意味がわからん」

またなまえさんは溜息をついている。俺はこの人と一緒にいるだけで大変に楽しく、溜息などまったく出てこないのだけれど、なまえさんは頭を抱えて「あーあ」と言った。「ほんッと大惨事なんだよなあ……」今なら体に触っても許されるだろうかと手を伸ばすと、普通にひょいと避けられた。気分じゃなかったらしい。俺もまだまだだ。もっとなまえさんのことをわかりたい。「にしても」

「まだ大黒くんの方がなんとかなりそうだけどな」
「それはつまり、俺と結婚するということだな!」
「どっから出てきた?」

なまえさんは突然観葉植物の陰から飛び出して来た部長と、二、三会話をして去って行った。部長は最近お決まりとなった台詞を口にする。そんなに何度も言われても仕方がない。それは部長もわかっているはずなのに、繰り返す。

「黒野。お前はなまえと付き合えているわけじゃない」

やれやれ。男の嫉妬は見苦しい。


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20201204

 

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