君に捧げる永遠の(12)


カフェだけではなく、同じ商店街の居酒屋やバーで働くこともある彼女は、二十歳になると同時に少しずつ色々な酒を飲めるように仕込まれた(無理矢理ではないらしい。あくまで楽しく飲めるようになったという話だ)。その為、どんな酒でも飲めるし、ついでに強い。
はじめて飲もうと誘った夜、潰そうとして逆に潰されたことは記憶に新しい。
今日はしかし、そういう邪な目的はない。
ただ、中秋の名月にかこつけて二人で飲みたいだけだ。そして月明りに照らされたなまえの横顔をずっと見ていたい。アルコールが入ると、彼女は頬をほんのり赤く染めて、上機嫌な彼女はどこまでも。そうどこまでも艶っぽい。いつも柔らかいが一層やわらかく微笑む、その顔が見たい。できれば気分が最高に良くなっている彼女を抱きたい。今日の月明りが照らす彼女の体は絶対にやばい。
俺は帰る途中で酒を買って、適当なツマミも買った。

「なまえ」
「ああ、部長さん。今日は早かったんですね」

「おかえりなさい」と言われたので「ただいま」と抱きしめて額にキスをした。この瞬間が至福である。なまえは「んん」と呆れているような困っているような声を出しながら俺の背中をぽんぽんと叩いた。

「ん? 何か買ってきたんですか?」
「ああ。お土産だ」
「なんです?」

ふふん、と鼻を鳴らして酒を置くと「おお!」となまえは目を輝かせていた。あまり一人で飲んでいるところは見かけないが、酒は好きなのだろう。「ならそっちはなにかおつまみですか」と楽しそうだ。
あまりの可愛さに胸が痛くなってくるが、俺は少しだけカーテンを開けてガラスのせいでぼんやりとしている月を示した。「ああ」なまえが言う。

「中秋の名月」
「この後、月見酒でもどうかと思ってな?」
「部長さん、乙なことしますねえ」
「惚れ直したか?」

いつもならばなまえは「ええ? あはは」惚れてもいないのにどうやって惚れ直すのか、というツッコミを笑顔に込めて流してしまうのだが、今日は「部長」と言ったせいで犬にのしかかられ「君じゃないのよ」と撫で回していた。
犬め。俺たちのいつものやり取りはどんどん犬に奪われているような気がする。



「乾杯」とグラスを合わせて酒を飲みはじめてからしばらくが経った。
部屋を暗くして窓を開け、月を見ながら俺は少しずつなまえの方へ寄っていく。なまえは犬を撫でつつ、酒に口をつけつつ、月を見上げている。
雰囲気は最高にいい。今はちょうど雲もないから満月の更に外側に虹色の光輪ができているし、白い光は清浄で、ああなまえは太陽も似合うが月も似合う。彼女に似合わないものはないのかも知れない。
窓から入ってくる、秋の夜の冷気が火照った頬を撫でた。

「寒くないか?」
「少し冷えますけど、大丈夫ですよ。部長も居ますし」
「なまえ」

その部長ではなく、こちらから熱を貰ってくれ。残りの距離をぴたりと詰めて名前を呼ぶと、なまえは俺の方を見てくれた。嫌がられてはいないことを確認しながら角度をつけて唇を合わせる。「ン」となまえは俺が何をしたいのか理解すると目を閉じた。
グラスをできるだけ遠くにやって肩に手を置き、その手を首筋、後頭部へと移動させながら、少しずつキスを深くしていく。
アルコールの匂いがする唇をぺろりと舐めると、なまえは俺を受け入れるように薄く口を開けてくれた。より口付けを深くしてなまえの舌を引っ張り出す。

「ん、……ふっ……ぅん」
「……苦しいか?」
「は、ぁ、すこし……」

なまえを抱きしめ、背中を摩ると、なまえはほっと体から力を抜いていた。
もう一度、それからこの後のことの許可も欲しい。手の位置をすすすと下げて、胸の真横に持っていくと指の先で遊ぶように触れる。

「……続けても?」
「……」

ここまで雰囲気を作ったら断られることは無いはずだ。とは思うものの、なまえの沈黙はいつも少し恐ろしいのである。
なまえの口がゆっくりと開かれる、断られることは無い。はずだ。だが、俺となまえとがあまりにも近かったからだろう。犬が俺となまえとの間に鼻先から割り込んできた。おいお前そんなふうにされたら折角の雰囲気がッ!「あはは」なまえは呑気に笑っている。

「よしよし。部長はいいこだね」
「……またこのパターンか」

そいつは別にいい子ではない。なまえはすっかりいつも通りに犬を構っている。なあ。続きをしたくないか? 秋の夜長に甘い時間過ごしたくないか? そうでもない? そうか。……そうか。


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20201002

 

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