いい男の日/アーサー


昼食の準備中に、調理場に来てアーサーは言った。

「今日はいい男の日、つまり、……ふッ、いい騎士の日だ」

少し考える。語呂合わせでイイ男の日はわかった。で? なんだ? あー、っと、ああ、アーサーの中でイイ男イコール騎士だから、いい男の日イコールいい騎士の日となるわけだ。たぶん。あんまり理解したくないのだが、大体そういうことで間違いないだろう。

「……あー、お菓子? はいアメちゃんどうぞ」
「感謝する。だが今日は貢物はいい」
「そうなの?」

「なまえ」
「はい」
「いい、騎士の日だぞ」
「……」

何か要求されている。勝手に作った概念の日に何をしろと言うのだろう。
アーサーはぱさりと前髪を弾き飛ばして得意気に言う。「騎士だ」いや、うん。それはわかった。それはわかったが。ええと。うーん。しかたがない。

「いい騎士の日って、なにするの」
「なんだと……!? お前はいい騎士の日の儀礼を知らないのか……!?!?」
「……知らない」

と言うか知りたくもないのだが。

「騎士の日は、日々姫を守り戦う騎士を労う日だ!」
「ああ、へえ、フーン……」

労う、労う……。
なら貢物も正解みたいなものだと思うのだが。

「存分に労ってくれていいぞ。普段は言えないようなことも言え! 特別に聞こう」
「いや、特に」
「……ないのか?」
「……」
「全くなにも……?」

わかりやすく、目を開いて顔色を変えて落ち込むアーサーに、「ねェよ」とは言い辛い。なにか適当なことを言って満足させて帰らせたいのだが。私は野菜を切っていた手を止めて、布巾で自分の手を拭う。アメちゃんはもうない。
私はがし、とアーサーの頭を掴む「!?」

「いつもおつかれ! めちゃくちゃエライ! なんだかんだ言って頼りにしてるし場が和むから好きだぞ!」

「あー、すごい、かっこいい」などと言いながらぐしゃぐしゃと頭を撫でる。髪が乱れてそろそろ怒り出すのではと思っているのだが、一向にその気配はない。アーサーが嫌に大人しくしていることに気付く。「?」頭を離して顔を覗き込むと、珍しく、真っ赤になって俯いていた。
私が褒めるのも撫でるのもやめて珍しいアーサーを見ていると、アーサーは赤い顔を隠しもせずにちらりとこちらを見た。

「……もう終わりか……?」

残念そうにそんなことを言うので、もうしばらく継続して、しかしこれ他の隊員に自慢とかされたら面倒だな、と思い至り「ヒーローには内緒だよ」と言うと、より機嫌を良くして帰って行った。


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20191105:アーサーってこんな感じですか……? 大丈夫か……?

 

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