罪状:抱えきれない程の優しさ13-3


52が落ち込んでいる。私の風邪は完全に治ったのだが、かわりに、52の調子が悪そうだ。その不調は、風邪とか、頭痛とかそういう肉体的なものではなくて、精神的にしんどそうというか、とにかく私はどうしたものかと経過を見守っていた。
それでも見兼ねて「大丈夫?」と肩に触れることがあるのだが、そうすると、52はとんでもない勢いで私から離れて、顔を真っ赤にして「び、ビックリするだろ!」と過剰な程に驚いている。

「52?」
「……」

触れると過剰に反応するくせに、ぼうっとしていて返事がない時もある。「52!」と強めに呼ぶとようやく「なんだ?」と返事がある。

「買い物行くけど52は?」
「お、俺も行く 」

嫌われた訳では無さそうだが、これはまた私には相談しにくいことなのだろうかと52の頭を撫でようとした。ぱっと避けられてしまったが52は「さっさと行こう」と私の手首をずっと掴んでいた。



「はあ」

ため息をついてバックヤードで項垂れていた。いつもならばアルバイトを終えたら直ぐに帰るのだけれど、最近どうにもなまえを見ると落ち着かなくて駄目だ。
体を見てしまってからおかしい。こんなことならしなければよかった。そうは思うが、あれは必要だったとも思う。
なまえは気にしていないようだし、俺も気にしなければいいのだが、ふとした時、俺はなまえの胸や腕や尻なんかを見ていてはっとする。さらに悪いことに、見たいとか触りたいとか思ってしまってぶんぶんと首を振る。そんなことを言い出したら嫌われるに決まっているし、こういうのはセクハラと言うらしい。
俺はこの気持ちをどうするのが自然なのかわからないまま、とにかく隠して逃げ惑っていた。
こうなってくると、なぜ今までハグやらなにやら強請っていられたのかわからない。

「はあー……」

店長や他のバイトに「深刻そうなため息だ」と笑われたり突っ込まれたりしている。俺はその度「放って置いてくれ」と手を振って追い返す。今日は誰も来ないから静かなものだ。
そう思っていたのに、隣の席に誰かが座る音がした。

「?」
「お疲れ様、52」
「なまえ!? な、なんで?」
「まあちょっと、迎えに」

迎えに。その言葉がやたら輝いて聞こえて俺は口元が緩むのを感じる。単純に嬉しいと感じながら、なまえと目を合わせた。こういうことは時々あったが、そういう時は大抵少し前から店でコーヒーを飲んでいるので、直接バックヤードに来るのははじめてだ。
やっぱり、いつもとは違うのかもしれない。

「さて、52」
「なんだ?」
「デートでもしようか」
「えっ」

なまえは、今日は仕事が早くに終わったのだろうか。制服姿のままだが、くっと体を伸ばして「はあ」と脱力してから立ち上がった。疲れているなら、休んだ方がいいのに。まだ風邪も、治ったばかりだ。だから。

「今月忙しかったり、私が寝込んでたりで全然遊べてないし、どうだろう? もちろん嫌だったら無理にとは」
「嫌じゃない!」

だけど、こういう時の俺は自分の感情に逆らえない。なまえに導かれるまま嬉しくなって、疲労なんて飛ばしてしまって、なまえと一緒に外に出た。「天気もいいしねえ」となまえは呑気に髪を風になびかせている。

「どこに、行くんだ?」
「そうだね。涼しくなったし、適当にぶらぶらしようよ」
「わかった」

はい、となまえに手を差し出されて、俺は少し迷ったけれど、結局その手を掴んだ。拒否するなんて勿体ないことはできないし、何より、俺はもうなまえがどこかへ連れて行ってくれるというだけでわくわくして、ガキみてえにはしゃいでしまう。
ああ、大人とは程遠いな、と思うのに、なまえはにこりと笑ってこんな俺を見て楽しそうなのである。

「おや、かわいらしいカップルですね」

ぼんやりとなまえの横顔を見ていたから気が付かなかったが、店の前の掃き掃除をしていた店長が、俺たちを見つけて、からかうようにそう言った。

「うん。いいでしょう?」

ぎゅ、と見せつけるように繋いだ手を持ち上げられて、なにか病気なのでは、と思うくらいに胸が締め付けられた。


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20200919
次で9月編は04まで

 

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