罪状:抱えきれない程の優しさ13-2


起きると、隣で52が寝ていた。ベッドの縁に持たれるようにして眠っているから、私は私のブランケットを肩からかけて、そうっとベッドから出る。
些細なことで起きてしまう彼だが、今日はぐっすり眠っていた。遅くまで見ていてくれたのだろう。
部屋を出ると、まだ少し咳が出たから、顔を洗った後にマスクをつける。テーブルの上にころがっていた体温計で熱も測ってみる。三十七度まで下がっていた。まあ平熱みたいなものだ。
朝食でも作ろうかと私は冷蔵庫を確認していると「あっ!!」と後ろから声をかけられた。「ああ」

「おはよう、52。昨日はありが、」
「まだ寝てなきゃ駄目だろ!」
「いやもう、」
「ベッドに戻れ! 俺が全部やる!」
「わかった、わたったって」

52は私の腕を引いて部屋に押し込み「食べたいものは?」と聞いた。私はベッドに戻りながら、そんなに気を使わなくても、もう治ったようなものなのに。と笑う。

「なんでも食べられるよ」
「駄目だ。こういう時は消化のいいやつじゃなきゃ駄目だって、」
「あ」

だが、折角なので甘えておきたい気持ちもある。これならば52の負担にもならないだろうし、新たに買い出しが必要ということもない。さっき見た冷蔵庫の中身を思い出しながら、52に今はいない人たちの影を重ねてしまいながら言う。

「うどんがいいな。レトルトでもいいから」
「うどん?」
「お父さん、風邪ひくといつも作ってくれたなって、思い出して」
「……うどんか。わかった」

52は真剣な顔で頷きながら部屋から出て行った。



本当になんでも作れるようになったなあ、と私は感動しながら52お手製のうどんを目の前にして丁寧に両手を合わせた。「いただきます」これは照れ隠しなのだろう。「食いすぎるなよ」と52は私から目を逸らした。
出汁の良いにおいがしている。昨日は何も食べていないんだっけ。いや、52がおかゆを作ってくれたような気がする。しかし、それだけだ、私は思ったよりも空腹だったらしく、やや前のめりになりながらうどんを口に運んだ。

「ふふ」
「な、なんだ? 美味くないか?」
「ううん。私、52の料理好きだよ」

52は口をぱくぱく動かして、顔を真っ赤にした後、私がへらへら笑っているのを見て「からかうなよ」と怒っていた。からかっているわけではなく、本心だ。それを言うとまた「ばか!」と追加で怒られそうだったから、私は黙ってうどんを頂いた。
いつもより薄い味付けなのは私の体を気遣ってだろうか。なんてできる男の子なんだと本当に、毎日毎日感動している。

「……俺は、なまえの料理の方が好きだけどな」
「えっ?」
「なんでもない!」

52も勢いよくうどんをすすり、しかし、自分の作ったものは納得できていないのか、なにやらぶつぶつ言っている。ちょっと私はいい思いをし過ぎなんじゃ、と思いながら、ふと、昨日の夜中の記憶がよみがえった。「そう言えば」

「ん?」
「私、52に体拭かせてたよね? ごめんね、そんなことまでやらせて」
「ぶっ」

正直私がやれと言ったんだったか、52がやろうか、と言ってくれたのかは覚えていないのだが、52がタオルを持って、背に腕を回している映像がふと過った。夢の可能性もあると思ったが、52の反応を見るに本当にあったことのようだ。

「ごほ、」
「大丈夫? 水飲む?」
「ぐ、い、いい。俺こそ、その、ごめん」
「え、なんで?」
「……」

顔を赤くして居辛そうに体を小さくしているので、悪いことをしてしまったな、と思いこの件に関して深く聞くのはやめておく。「とにかく、ありがとう」とだけ言って、うどんの汁を半分飲んだ。
とん、と机にどんぶりと箸を置く。量も調節してくれたっぽいな、と思いながら「ごちそうさま」と52を見た時だ。「えっ」私はがたりと立ち上がる。

「え?」
「52、血が」
「血?」

急いでティッシュを取って彼の顔の近くまで持って行ったが、間に合わなかった。つう、と鼻から垂れた赤い液体はぽたりと机に落ちる。うどんに入らなくてよかった。
52はまだなにが起こったかわからないようだったが、私の仕草や落ちた血液から察しがついたのか、私より勢いよく立ち上がって鏡の方へ駆けて行った。

「52?」
「だ、大丈夫。大丈夫だ」
「ほんと? でも、なんか顔も赤いし、ひょっとして私の風邪」
「違う。絶対にそうじゃない。絶対に違うから、なまえは薬を飲んで寝ててくれ。家のことは全部俺が、いっ」

机の角に体をぶつけていた。とても動揺している。私は本格的に心配になってきた。

「そんなに急がなくても、ゆっくりでいいよ。なんなら明日私がやってもいいし」
「駄目だ、なまえは寝てなきゃ」
「52も今は安静に、でなきゃ止まらないし」
「平気だ。本当に、平気だから」

だから、と52は繰り返す。私はひょいと覗き込むように52の顔を見ると、泣きそうな顔で真っ赤になって「薬飲んで、部屋で、寝ててくれ」と言った。ここでふざけて頭を撫でたりしたら嫌われそうだったので。私は大人しく「じゃあ、そうさせてもらうね」と52の言葉に従った。


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20200919

 

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