罪状:抱えきれない程の優しさ13-1


まずいかもしれない。と額に手を乗せた。熱い、気がする。最近暑かったり寒かったり急に降ってきた雨に当たってしまったりと原因はきっとその辺にあるだろう。
しかし、今日は金曜日だ。一日会社に行けば二日は休みである。行って、定時で帰って来たらいい。そう決意を強く強く持ちながらリビングへ出ていくと、52が心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫か? なんか、顔色悪いぞ」
「ん? んん。大丈夫。おはよう」
「おはよう……、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ」

52はじっと私の顔を見て渋々「ならいい、けど」と心配そうにしていた。家を出るときも不安そうでついてこようとしていたが「バイトがあるでしょう。頑張ってね」と言うと引き下がった。



やっぱり、何度考えてもなまえの朝の様子が気になった。大丈夫、なはずはない。顔色だっておかしかったし、いつも以上にぼーっとしていた。はあ。と吐き出される息は熱くて、俺はバイトが終わると直ぐに電車に飛び乗ってなまえの会社まで行った。
ビルからでてきたなまえは案の定朝よりもふらふらしていて、咄嗟に俺が隣で支えた。「あれ?」こんな状態だと言うのに、なまえは呑気に「迎えに来てくれたんだ」と笑った。

「体調悪いだろ」
「実は割と」
「休めなかったのか?」
「ううん。まあ、明日明後日と休みだし、ね」
「ね、じゃない!」
「ごめんね、病院寄って帰るから」

支えたなまえの体はかなり熱いように思えて、俺はなんだか苦しくなりながら、なまえの隣にいた。なまえは自分と言うよりは俺に気を使ったようで、タクシーを呼び、病院に行った後、またタクシーで家まで帰った。「久しぶりに乗ったなあ」とやっぱり呑気なものだ。
家に帰ってくると、ソファに座り、すぐに崩れるように倒れていた。やっぱりしんどいんじゃないか。俺は顔にかかった髪を避けながら声をかける。

「薬、飲まないと」
「うん」
「腹減ってないのか? 何か食べれそうなものは」
「うん」
「それどっちだ? 食べられそうか?」
「ん」

なまえが起き上がろうとするので、俺は慌てて止めて、なまえを部屋に押し込んだ。「薬飲んで静かに寝ていて下さい」と医者は言った。
看病の方法は前にテレビで見た気がするが曖昧だ。もう一度調べて、それから何とか頑張るしかない。

「おかゆ、あとはよく水分取らせて、薬も飲んで貰う……、冷やす場所は頭……、氷枕なんて家にあるのか?」

なまえに聞くが「ない、と思う」とのことだったので無いのだろう。ないのなら仕方が無い。何かに冷やすものをを探し始めると、なまえがゆっくり部屋から出てきて、シート状の冷却材を棚の奥から引っ張り出した。
パッケージに、熱が出たらしい子供と、そのシートを額に張っている絵が描かれている。なるほど。俺はそれを受け取ると、なまえを抱えて部屋に戻した。

「おかゆ、すぐ作るからな。そしたらちょっとでも食べて、薬も飲んで、それから」

なんだっけ。ああそうだ。

「水分取ってよく寝れば、きっと良くなる」

なまえは少しだけ笑ったみたいだった。重たそうに布団から手を出して、俺の頭を数回撫でた。どれだけ撫でてもいいから、早く元気になって欲しい。



そう思っていたのだが、夜遅くになっても全然熱が下がった様子がない。それどころか、帰ってきた時より息は荒いし体も熱い。熱を測る機械を見つけたので使ってみると、三十九度もあった。時々咳をしている事もあって呼吸するのもしんどそうである。
そして、汗がすごい。
あまり汗を放っておくのは良くないと書いてあったからタオルで押さえるけど、顔や首だけではいけないのでは、とゆるく開けられている胸元を見やる。
これは医療行為、と繰り返しながらなまえに問う。

「汗、拭こうか?」

なまえはぼんやりしながらこくりと頷いた。俺は自分で提案しておいてその反応に驚いた。「いいのか? 服の下も拭くけど」なまえはまたぼんやりと頷く。ちゃんと聞こえているのだろうか。
適当に返事をされている気がしなくもない。

「じゃあ、脱がすからな?」

シャツのボタンをひとつずつ外すと、なまえの、俺とはまた違う真っ白の肌が露になる。さっき着替えた時に脱いでしまってそのままなのか、下着を付けていない。喉がごくりと鳴って、俺まで汗が出てきてしまう。

「……っ」

タオル越しに触れても、俺よりずっと柔らかいのがわかる。色々見えてしまわないように服を残したまま拭いているのだが、いっそ全部見てしまった方がよかったのかもしれない。
俺はどうにかなまえの汗を拭いて服を戻してベッドに寝かせた。

「ごめんな、なまえ」

あまり役に立たないどころか、変なことばかり考えてしまう。直接触れたいとか、全部みたいとか。……俺にも触れて欲しいとか。
はあ。とため息をついてトイレに行った。
……こんなの、許されるわけがないのに。


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20200917


 

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