君に捧げる永遠の(犬編02)


この友人には一番最初に結婚の報告をした。結婚式はしていないからまだちゃんと会えていなかったのだけれど、今日ようやく、一日ゆっくり遊ぼうという話になった。東京皇国ホテルで高めのランチを食べながら、彼女は言った。

「最近どうなの? 相手の、大黒さん、だっけ? あんまりいい噂聞かないけど」
「んん……」

改めて聞かれると困るなあと私は言葉を探し始める。最初に結婚の話をされた時は何事かと思ったし、私はなにかひどいめに遭うんじゃないかと思ってもいた。けれど、結果、私は結構自由気ままに暮らしている。
許容できないレベルのことは起こっていない。たぶんあちらが調節してくれているのだろう。

「結構、普通」
「普通ってなによ?」
「ちょっとヤバいくらい好かれてる以外は、普通」
「ふうん?」

困ったことが起きてないならいいけどね。と流してくれた。ありがたい。とてもじゃないが全部を説明するのは面倒だった。
一緒に住み始めて二ヶ月が経てば、流石にだんだんわかってくる。あの大黒という人は(私も大黒だが)あまり褒められた人間性を持っていないようだが、私の前ではできるだけ良い人間であろうとしていて、私のことをとんでもなく大切にしている。きっと本心からそうしたくてしているのだろう。
執着とそのまま言い換えることのできる愛情を毎日毎日体に受けて、私は生活しているのであった。

「まあ、なんかあったら言いなさいよ」
「うん、ありがと」

じゃあ二軒目に行こうかという所で、ホテルのレストランを出て、エレベーターに乗った。私が先に入って、その後ろから何人か人が乗ってきた。なんだか肩で風をきって、人が退くのが当たり前と思っているみたいな感じの悪い人達で「ん?」その中に、なんだか見た事のある人がいる。
同時に向こうも私に気付いて目を合わせたが、私は周囲の人に不審がられる前にすぐに視線を外した。
友人には気づかれてしまったらしく小さな声で「なに? 知り合い?」と聞かれた。私も同じくらいの音量で言う。

「ううん。知らないひと」

高そうなスーツを着た真ん中分けのお兄さんも、その人の腕にくっついていた女の人も知らない人だ。たぶんここは、そういうことにしておいた方がいい。

「次、パフェ食べたい」
「いいね。どこ行く?」
「抹茶美味しいとこ」
「じゃあ浅草じゃない?」

仕事している横で申し訳ないが、私は極めて自然体で友人と話をしながらホテルを出た。
今日は会社じゃなかったから一緒に出るとは言わなかったんだなあと、私はぼんやり考えていた。


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20200912:犬編全4話かも…

 

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