君に捧げる永遠の(犬編01)


リビングに入るなり天使がいるのかと思って震えた。今日のなまえは一段とかわいらしい。メイクもいつもより気合が入っているし、今日はどこかへ出かけるようだ。
とりあえず腕の中に閉じ込めてこれは俺のものであると確認する。擦り寄ろうとしたら「髪が」崩れる、と嫌がられたのでそっと離す。
いやしかし、その可愛らしい服と、小悪魔的な伊達メガネは何事か。

「そんなにかわいい格好でどこに行くんだ?」
「デートです」
「……」
「そんな顔しないで下さい怖いですよ」
「君が思わずこんな顔になってしまうような事を言ったんだぞ?」
「友達と、デートです」
「女友達だな?」

「はいそうです」となまえは鞄の中身をチェックしている。俺はなまえの用意してくれた朝食を食べながら、今日の予定について考える。本当ならそのデートに(気付かれないように)ついて行きたいところだが、生憎今日は土曜だと言うのに仕事である。

「部長さんはお仕事でしたよね?」
「ああ」
「会社だったら途中まで一緒ですけど、一緒に行きますか?」

可愛く着飾ったなまえと一緒に外を歩くのはそれはそれは気分がいいだろうが、今日に限ってそれはできない。今日の仕事は会社ではないからだ。所謂接待と言うようなもので、会社には一切いかない。
「いいや。俺は後から出るよ」とだけ言うと、なまえは特に何も聞かずに「そうですか」とバッグを肩にかけて「じゃあ行ってきます」と笑った。……眩しいんだがあんな所に窓はあったか?
俺は吸い寄せられるようにフラフラとなまえのそばまで歩いていき、じっと見下ろす。
少し甘い匂いがする、彼女気に入りの香水の匂いだ。それから、やっぱり伊達メガネが最高に似合っている。メガネのシャープな線の奥に、ふっくらとした彼女の肌が国宝級のコントラストとなっておりくらくらする。……こんな格好で外に出るのか? 俺以外の男が絶対に見るだろう。
肩を掴むとなまえは口には出さないが「また始まったな」という顔をする。これもあまり表情には出ていないが俺にはわかる。

「そんなにかわいい格好でどこへ行くんだ……?」
「だからデートですって」
「眼鏡は外さないか? で、もっと露出のない服にしないか? あるいはベンチコートを羽織って上から下までくっつけておいてくれないか?」
「暑いですよそんなの。あとこれは眼鏡がお洒落なので外せません」
「だがお前それ、相当にかわいいぞ?」
「部長さんのかわいいってもしかして、似合ってないって意味ですか?」
「馬鹿な。かわいいはかわいいだ。他のどんな意味もない」
「……いってきまーす」

外に出ようとするなまえをもう一度捕まえた。さすがに少し嫌そうな顔をされる。これ以上は粘れない。仕方がない。どうしても嫌だと言うのなら俺にも考えがある。

「今度俺ともデートしてくれ」

なまえはきょとんと俺を見上げて俺と無言で目を合わせていた。えっ。まさか断わられるのだろうか。緊張して返事を待っていると、なまえは吹き出すように笑って「楽しみですね」と俺の腕から逃れて行った。
彼女は俺と出かけるのが楽しみらしい。どこに行くのか、今から考えておかなければ。
今日の仕事はいつも以上にパフォーマンスを発揮できるに違いない。


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20200912:犬編、全3話の予定。

 

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