君に捧げる永遠の(5)


俺は一緒にいられる間は出来うる限りくっついて居たいと思うのだが、彼女は最近よく土曜日や日曜日にもアルバイトに行く。彼女が学生時代からバイトをしていたカフェで、俺と彼女が出会った思い出の場所でもある。
本当は専業主婦であって欲しいのだが、彼女がそれは嫌だと言うので了承している。しかし、二人きりの時間を取り上げられているような気持ちになってしょうがない。
玄関で彼女の肩を掴みながら言う。

「やっぱり俺も行く」
「駄目ですよ、部長さん私のお客さん威圧するじゃないですか。そういうの、営業妨害って言うんですよ? 威圧しないならいいんですけど、でき無いですよね?」
「私の……? なんだその素敵な修飾語は?」

俺にも使ってくれ。と縋り付きそうになるのをどうにか耐えてぎゅ、と手の力を強くする。するが、なまえに「痛いです」と言われてしまえば力を弱めるしかない。
それにしても、普段は俺の好きなようにさせてくれるなまえだが、こういう時には強くはっきり駄目だと言う。そういう分別のある所も魅力的だが、すげなくされると人並みに寂しい。

「いい子で待ってて下さい。何かお土産貰ってきますから」

いつまでも肩を離さないでいると、彼女から、彼女から髪を撫でられてぴたりと思考が停止する。「よしよし」という新規ボイスのおまけ付きだ。その声録音させてくれ。仕事中に聞くから。
などということは、直接は頼めないので、俺は断腸の思いで肩から手を離した。

「気を付けて頑張って来い」
「はい。ありがとうございます。いってきます」
「いってらっしゃ、いや、やっぱり待ってくれ」
「んー……」

なまえはひたすら困っている。「時間が」と言われるので手短にしなければならない。「なまえ」名前を呼ぶと返事がある。可愛らしくもしっかりとした声だ。何故こう彼女は端から端まで俺に突き刺さるのだろうか。

「やっぱり、俺もあとから見に行く。大丈夫だ。三十分で帰るから。それならいいだろ?」
「来たら怒りますよ」
「……怒ることはなくないか?」

「怒りますから」にっこりと言われて、ごくりと唾を飲み込んだ。ちょっと窘められるくらいなら大歓迎で大興奮なわけだが、実際の彼女の怒り方というのはそれはもう静かで、俺の心を的確に抉ってくるので怒らせてはいけない。

「よしわかった」
「本当にわかりました?」
「いってきますのキスをしてくれたら俺は大人しく家事をして御飯を作りながら待っていると約束しよう」

なまえは「うーん」と唸ってそれから肩を竦めて首を振った。

「しょうがないですねえ、私の旦那様は」

ひゅ、と鋭く吸い込んだ空気が喉にフタをしてしまって息ができなくなる。私の、旦那様。私の、旦那様。私の。私の。なんて甘美な響きだ。俺はその場にしゃがみこみ「ちょっと待ってくれ」「なまえのかわいいの過剰摂取で」「おいおいそれはどういうことだ?」と頭を抱える。

「あーあ……」

なまえはと言えばそんな俺を珍しい生き物でも見るかのように観察した後「じゃあ行ってきます」と出かけて行った。
仕方ない、ちゃんと言うことを聞いて、ただいまのキスを多めにもらうことにしよう。


-----------
20200911

 

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -