君に捧げる永遠の(4)


土曜であろうが日曜であろうがなまえの朝は早い。さっさと起きて散歩をして、掃除洗濯、朝食と昼食の下拵えまで終わらせてから、好きな事をしている。時々アルバイトへ出かけることもあるが、今日は一日家に居る。
俺は優雅に読書をする彼女の隣に座って膝の上に手のひらを置いた。

「なあ、今日は買い物に行かなくていいのか?」
「はい。土日は混むので、必要なものの買い出しは平日に済ませてます」

俺の妻は優秀である。時々チラシをチェックしているので、安いものを安い日に買えるように工夫しているのだろう。そんな必要は無いのだが「楽しいからいいんです」らしい。楽しいのならその楽しみを奪うことも無い。

「なら、なんの予定もないのか」
「はい。読みたい本が溜まってるので、一日読書しようかと」
「そうか。そういう一日もたまにはいいな。オススメはないか? 適当な本を貸してくれ」
「オススメですか?」

なまえが本から顔を上げてこちらを見た。きゅん、と鳴る心臓のせいで抱きしめるのが遅れてしまった。その隙になまえはすっと立ち上がり「小説がいいですか? それとも自己啓発系?」「なんでもいい。君が読んで面白かったと思ったものはどれだ?」そうですねえ、と自分の部屋に向かうなまえはご機嫌だ。
俺はそのなまえの後ろをついて行く。
寝室は同じだが、俺達にはそれぞれ自室がある。なまえの部屋は本が大量に収納されていて、書斎のようになっていた。勝手に入ると良い顔をされないので入らないから、こういう機会は大切にしなければならない。

「これ、面白かったですよ」
「そうか、なら、俺はそれを読ませてもらうとするか」

なまえはにこりと笑ってソファに戻った。俺も隣に座りなまえの横にピッタリくっつきながらページをめくる。なまえは時々立ち上がって、新しいお茶を(自分の分を用意するついでに)いれてくれた。彼女はカフェでのバイトが長かったからだろう、お茶やコーヒーをいれるのがとても上手い。

「どうぞ」
「ありがとう、君の淹れるお茶は世界一だな」
「部長さんは大袈裟ですねえ」

これが全くもって大袈裟ではない。彼女は照れくさそうにへらりと笑ってお茶を冷ましていた。どうせ待つならと、俺は彼女のカップを奪って机に置き、ぐっと距離を詰める。
額にキスをして、その次は目尻、それから頬と落ちて行って、最後は小さな唇へ。「ん、」と彼女が小さく声を漏らすので、だんだん本もお茶もどうでもよくなってくる。短く長く触れるだけのキスを繰り返していると、彼女は悩ましげに眉根を寄せた。かわいいがすぎる。今度は深くしよう。僅かに口を開けて迫るとなまえは「あの」と俺の胸を押すようにして止めた。

「お茶が、」

お茶。俺はその言葉を聞いてふっと笑った。

「そうだな。せっかく君がいれてくれたんだ。美味しい時に飲まないとな」

なまえは安心したように息を吐いて「はい」と俺の手により机に置かれたコップを持った。俺も同じようにするが、体が疼いてしょうがない。
ちらちらと彼女を確認するが、もうすっかりさっきのキスは忘れたみたいな顔をしている。本を開いて続きを読み始めた彼女にもう隙はなかった。今無理やりこちらに引き寄せたら部屋に逃げられてしまうかもしれない。
ならば、隣で大人しく本を読んでいる方がまだいい。
そもそも彼女はそういうことをするのが苦手のようなので、無理強いはいけない。彼女のそのかわいいかわいい口から「きらい」の三文字が出たら俺は生きていられない。
それでも、週に一度は許してもらえるので、俺たちは仲の良い夫婦である。


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20200911

 

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