君に捧げる永遠の(3)


【男性が好きな人をイメージしてブレスレットを作り、その女性にプレゼントしないと出られない部屋】

なまえは落ち着き払って「ふうん」と言って、一つしかない扉の上に書かれた文字を読み、ぐるりと部屋を一周した。部屋の中央に低いテーブルが設置されており、その上にごちゃごちゃと天然石やらチェーンやらが散らばっている。「不思議なことがあるものですね」彼女はここを安全であると判断したらしく、躊躇いなく備え付けられているクッションの上に腰を下ろした。

「慌てないところも素敵だが、君はどうするべきだと考える?」
「扉は重くて開きそうにないですし、とりあえず壁に書いてあることを実行してみるのがいいんじゃないかと思います」
「そうだな。同感だ」

くあ、と彼女はリラックスした様子で欠伸をした。眠たいようだ。近くのクッションを集めてベッドを作っている。
実際、彼女が現時点でやれることはない。この部屋に男性は俺一人だし、女性はなまえだけだ。そして俺はなまえのことが好きであり、そのなまえをイメージしたブレスレットを作る任務(試練?)が与えられているわけだ。
なまえは今にも「終わったら起こして下さい」と言いそうだ。眼を擦りながらこれからのことを提案する。

「適当に、そのチェーンに石繋げて私にプレゼントしてみてください」
「なんだって?」

適当に。俺がなまえにあげるものを、適当にするだなんて。そんなことが可能だと本当に思っているのだろうか。この俺が、なまえに差し出すものが、適当であっていいはずがない。

「君はそれでいいのか?」
「いいです。だってその扉がそれで本当に開くのかどうかもわからないのに」
「駄目に決まっているだろう。君は自分の存在を軽視しすぎている」
「んん……」

なまえは「終わったら起こして下さい」と言って自分で作った即席のベッドの上に寝転がった。警戒心はその辺に捨ててしまったようだ。「任せてくれ」と俺は答えて、スーツのジャケットを彼女の上に被せに行った。「ありがとうごさいます」と半分ほど開いた目に正直、何故ここは、媚薬が並んでいて、飲み干した上でセックスしなければ出られない部屋とかではないのだろうと思わないでもないが、劣情は夜まで仕舞っておくとしよう。今必要なのはインスピレーションと愛情である。
適当なものをプレゼントするだなんてとんでもない。
彼女がうっかり惚れ直してしまうようなものでなければプレゼントする意味がない。ものづくりに精通しているわけではないにしても、手を抜くことは許されない。いくつかある道具の使い方から頭に叩き込み、ブレスレットづくりを始めた。



「……お腹空きました」
「もう少し待ってくれ」
「それ、さっきも聞きましたよ」

なまえは警戒心と一緒に床でころころ転がっている。「んー」と言いながら体を伸ばして「部長さん」と俺を呼び、「もう終わりましょうよ」と頭突きをされた。そんなことをされてもモチベーションが上がるだけだ。

「もうちょっとだ」

メインとする石は割合に早く決まった。というか彼女にプレゼントするとしたらこれしかないし、そもそもこれは彼女を象徴するような石でもあった。なまえは今まで一応経過を見ずにおいてくれたみたいだが、完全に飽きており、テーブルの上に顎を乗せて俺の手元を見ている。やや緊張して手が震えだすが、この金具を繋げれば完成である。

「よし。できたぞ。受け取ってくれ」
「どっちの腕ですか?」
「そうだな。左にしておくか」
「はい」

強く触れたら折れてしまいそうな左手首が差し出された。部屋が白いせいだろうか。余計に華奢に美しく見える。何故彼女はこんなに体の隅々まで綺麗なのだろうか。
そこにたった今俺が作ったブレスレットを乗せる。凝ったものはできないだろうと、ほとんどそこにあったものを繋げただけになってしまったけれど、華美なものより、シンプルなものが良く似合う。連なっている石は。

「これ、ダイヤモンドですか? 普通に買ったら結構な値段しそうですね」
「君は勝利の女神だからな。この石しかないと思ったんだが。嫌いだったか?」
「いえ、すごくきれいです」

彼女の口元が微かに緩まるのを見た。左手首を動かしながら(彼女程ではないにしても)輝く石を眺めている。「ありがとうございます」と言われてぐっと拳を握りたくなる衝動を押さえて極めて平静を装い「ああ」と頷く。
がちゃり、と鍵が開くような音がしたので、なまえは小走りで扉へ歩いて行った。扉は押すと、簡単に開いた。「やった」となまえはこちらを振り返り、手を振る。

「おかげで開きましたね。帰りましょう」
「そうだな。なにか食べに行くか。なにがいい?」

ちらりとなまえを見るが、なにやらもう既に「なにがいいかなあ。カレー、いや、うどん? カレーうどん?」と何を食べるかということで頭がいっぱいのようである。なあ、なまえ、もうちょっとその左手のやつを構ってくれてもいいんだぞ? もっと深くどうしてダイヤモンドなのか聞いてくれても構わないんだが、彼女は「ナンカレー……?」と完全にカレーに夢中だ。
俺の存在を意識して欲しくて手を握ると、なんでもないように握り返された。こういうところにスケールの大きさみたいなものを感じて惚れ直すと、まあ、なんでもいいかと思えた。彼女は俺の隣にいるのだから。
俺の勝利の女神は、ブレスレットをそれなりに気に入ってくれたようで、時々、ファッションに合わせて活用していた。俺がそれを見つけるたびにどれほど喜んでいるかは、知らなくてもいい。あまり大袈裟にすると格好が付かないからな。


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20200909
あめさんの素敵ツイートから

 

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