黒猫になってみたい/ジョーカー


チラリとジョーカーを見ると、すっかり、拗ねている。
リヒトくんの白衣の中が思いの外居心地良くて寝ていたことを良く思っていないようだ。

「……」
「……」

なんとかならないかなと髪に触れようとしたら、す、と空を切った。……避けられた。

「…………なんか用か」
「…………、なんにも」

そんなに気に障ったのだろうか。イマイチ分からないが、わからなくても不快にさせたのは事実なのだから、謝った方がいい、のかも。こういう時、友達と言ってもジョーカーとリヒトくんくらいしかいない私にはわからない。

「……あの、ごめんなさい」
「なにがだよ」
「ハンバーガーか、リヒトくんかどっちか」
「は、そんな適当に謝られても響かねえなァ?」
「……」

なんだか、根本的に間違えている感じはある。もう少し繊細な問題なのかもしれない。と言うか、本当に私に非があるのか? 確かに私は適当に謝っている。
もう一度髪に手をのばすが、さっと避けられる。すかさず三度目を試すがダメだった。「ふふ」猫じゃらしにじゃれる猫の気持ちがわかってきた。
私が怒られているにも関わらず笑ったせいで、ジョーカーの不機嫌度合いが上がるのがわかる。……しまった。

「ジョーカー……?」
「……」

ついに返事もなくなった。助けてくれ救世主リヒトくん。ん? リヒトくんと言えばなにか最近面白いことを教えて貰ったような。ええと、確かあれは研究室の隅で論文を読ませてもらっていた時で。「そういえば二人は喧嘩とかしないの?」とリヒトくんが聞いてきたんだった。「いっつも私が適当に流されてあげてるんです」と答えると「あー、なるほど」と言っていた。「じゃあジョーカーが怒って手がつけられなくなったことってないんだ?」それはまだない、とその時は言った。それはまだない。でも、今がそうかもしれない。
あの時たしか「そっか」と彼は笑って「じゃあもしそういう日が来たら試して見て欲しいことがあるんだけど」と……。

「ジョーカー」
「うるせェな、用もねェくせに何度も呼ぶんじゃ、」
「……」
「……」

リヒトくんに貰ったもっっっこもこの黒いパーカーと、黒いショートパンツ。それから何故かついでにとくれた猫耳としっぽだ!
招き入れるように両手を広げていると、ジョーカーはぱん、と自分の目の当たりを叩いて言った。

「リヒトか……?」
「うん」
「なにやってんだあいつは……」

ジョーカーは言いながらも、吸い寄せられるように私を抱き上げて、ソファの上で、ジョーカーを跨ぐように膝立ちさせた後、胸の辺りに顔を押し付けていた。少しくすぐったい。
ようやく髪に触れて、もう一度言う。

「ごめんなさい」
「いい。勝手に拗ねてただけだ」
「……なんで?」
「お前からあいつの匂いがしたからだろうが。お前も嫌がったろ。俺から、俺じゃねェ奴の匂いがすんのをよ」
「……え?」

ジョーカーは、私がまだ何も言わない内からため息をついた。私の返事がだいたいわかっているみたいだ。
となると、拗ねていたのも私には言っても分からないと思ったからだろうか。……それなりに、申し訳ないと思う。

「え、私はジョーカーがリヒトくんの匂いさせてても気にならないですけど。逆でも」
「お前を放って楽しく遊んでるかもしれねェぜ?」
「……? 大体そうじゃない?」
「もういい、わかった。勝機が見えねェ」

息のかかる所があたたかい。
私はぐ、とジョーカーの頭を抱いた。

「無視されるのも、避けられるのも、寂しいですね」
「……」

はじめて知った、訳では無いけど、はじめて知った様な気がした。私がジョーカーのことにすぐ気付けない時、同じ気持ちなのかも、考えると心が痛む。気を付けよう。
そういうところだ。と、ジョーカーはまた溜息を吐いていた。その後小さく、悪かった、とも。


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20191103:目薬で泣かすか本当に泣かすかおっぱい揉む?って聞かせるか悩むなどした。
以下おまけ

「ところでせっかくそんな格好してるんだからもうちょっとなんかねェのか」
「えい」
「オイ、俺に耳つけてどうすんだ」
「……でも、信じられないくらい似合いますよ? かわいい! すごい!」
「……にゃー」
「あははは!声が低い!」
「言わせたんだから責任取ってかわいがれよ」
「なんだろうこれ、なに? なんか目覚めそう!」
「……お前は俺を複雑な気持ちにする天才だよ」

 

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