27日:君をあいする一番の方法


自分の仕事を片付けてから、いくつか大黒の仕事を手伝った。今まで完全に無視していたので、やや大黒の部下たちがざわついていたけれど、そこはさすがに大黒だ。
完全にいつも通りだった。
ただ、なまえの態度が今までと百八十度違うので「ついに付き合い始めたのでは」という声は聞こえてきた。付き合ってはいない。お互いに好きだが、明明後日の朝にはもう何の関係も無くなっている。

「あとはどうするかなあ」

何ができるだろうと考えながらカレーパンをかじっていると、なまえの隣に大黒がさっと座った。座ってから「今朝は助かった」と大黒が言った。多分そんなに助けてはいないのだが、そう言われたら「こちらこそ、混ぜていただいてありがとうございました」と言う他ない。
大黒はなまえと同じカレーパンを買ってきていたらしく、がさがさと袋から出してかじり始めた。すっかり慣れてしまったようで、いつもの笑顔は崩れない。

「明日の夜なんですけど、部長暇してませんか」
「なんだ、またどこかに連れていってくれるのか?」
「はい。家に遊びに来ないかと思って」
「君の家に?」
「で、よかったら、泊まって行って下さい」

ゆったりとした調子で、そうある事が当然のようになまえが笑った。大黒はそんななまえの笑顔を眩しそうに見ながら「これには、かなり色んな意味が含まれている訳だが」と大黒は回りくどい言葉を先ず、差し出した。

「最後の夜だ。失うものがない人間は怖いぞ」
「それはつまり、あれですよね。襲われても文句は言うなよって話ですよね」
「直球だな……まあその通りだが……」
「構いません。というかこれは、誘ってるんですよ。私もそうなってしまいたいと思って言ってるんです。して貰えなかったら多分、落ち込むと思います」
「直球だな……!!」

大黒からの返事はなかった。居心地が悪そうに顔をわずかに赤くしてなにやらぶつぶつ言っている。
自信満々に言ったけれど、最後の最後で失望されたらどうしようか、となまえも苦笑した。不安な気持ちは双方にあるようだ。
まあ、明日までに考えておいてくれればいいと、なまえは話題を入れ替える。

「大黒部長」
「ん、どうした?」
「それ、美味しいですか」
「ああ。こんなものレギュラーメニューにしているなんて正気じゃないと思ったが、あのパン屋の看板メニューなだけはある。これは案外慣れるとクセになるな。味だって悪くないぞ」
「へえ」

冷静に味の感想を言ったあと、しかしまあ、と大黒は目を見開いて言った。

「辛いけどな!」
「はい」

それはわかる。それだけは、わかる。

「辛いですね」
「ああ、辛い」

八月二十七日、あの人なら、きっと一緒に食べて同じものを共有してくれると夢想していた。目の前のこの人も同じことをしてくれる人だということには、随分前から気付いていたのに。

「ありがとうございます、部長」
「なんのことかわからんが、俺は君に礼を言われるような男じゃない」

それでも、ありがとうございます。なまえは大黒にもたれ掛かりたいような気持ちになったが、ここではさすがにやめておいた。


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20200827

 

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