健康診断/ジョーカー、リヒト


なまえは戦闘員ではない。だからこそ、与えられるものも奪われるものもギリギリ生きられる程度、だったらしく。

「……最近その辺の女子高生が話してた言葉なんですけどね、こういう食事、重いって言うらしいですよ」
「がんばれよ、もう一口いっとけ」
「無理……、リヒトくん食べません……?」
「オイ、なら俺が食うから寄越せ」
「お願いします」
「ほら、俺がアーンしてやるぜ」
「……」

なまえは口を閉じて首を振った。
なまえの体はすっかりそのギリギリの生活に慣れてしまって、一週間くらいなら水だけでけろりとしているらしい。とは言え最近は、「でも、人間って食べなくても死なないらしいですよ」と何の論文を読んだのかそんなことも言っているので、今はもっと頑丈なのかもしれない。
だから、僕やジョーカーの努力で標準体重に近付けても、まだ、ハンバーガー(別にめちゃくちゃ大きいわけではないもの)一つすら完食できないでいる。

「食え」
「もう良くないですか? 明らかに前の三倍くらい食べれるようになってるし……」
「まだいける」
「まあまあ、無理に食べさせると吐いちゃうかもだし」

なまえは「リヒトくん……」と救世主を見るような目で僕を見つめ、ジョーカーから隠れるように僕の白衣に潜り込んできた。
あ、これは怒るぞ。

「おい、返せ」
「僕は取ってないでしょ……」
「最近気付いたんだけれど、リヒトくんて面白い匂いしますよね」
「え、クサイ?」
「ううん、なんだろう。傷薬とか薬品とか、そういうのの匂いかな」
「オイッ! いい加減に戻って来い!」
「ジョーカーはさっきタバコ吸ってたから……」

なまえは僕の白衣の中に引きこもりながら、暫くジョーカーにあれこれ言われつつもじっとしていた。程よく暗くて暖かいから、気に入ったのかもしれない。
僕が構わず作業していると、いつの間にか眠っている。なるほどこれはジョーカーの気持ちがわかるってもんだ。
そっと頭に触れたら、ジョーカーが不貞腐れた様子で「やらねェぞ」と言った。欲しくない、とは言わないけど、僕は君たちが二人でいるのを見る方が好きだ。


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20191103:リヒトの助手と称して第8に行ってもらうのも面白そうなどと思う。

 

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