君にかかればこんなもの/ジョーカー


俺から、はよくあるが、なまえから寄ってくる、という事は滅多にない。いつも俺が引き寄せて、離さないでいるとなまえは何かを覚って大人しくしている。
特にギャンブル帰りだと近づくどころか逃げられる。煙草の臭いがきついのだそうだ。髪の毛一本からさえタバコの臭いがする、と顔を顰められる。
意思表示ができるのはいいことではあるものの、俺としてはたまにはあいつから寄ってこられたい。あいつときたら限られた空間で何かしら必死になれることを見つけて、大抵息を潜めて没頭している。それも良いことではあるが、だ。
俺が帰ると、すぐには気が付かなかったが、なにかに気付いて顔を上げる。

「……、ん、あれ?」
「どおしたァ?」
「あ、おかえりなさい」
「おう、ただいま」

「んん?」となまえは首を傾げて鼻をくんくんさせている。立ち上がってふらふらと歩き、匂いの元を突き止める。すなわち、俺だ。

「ジョーカー何か持ってるんですか?」
「残念ながら今日の土産はナシだ」
「土産はいいんですけど、でも、なんかいい匂いしますよ」
「そうかァ? 気のせいじゃねェの?」
「ええ、でも……、あ」
「あ、」
「待って、ってことは……」
「ん?」
「近付かないでください」
「はァ……? なんで」
「誰かの匂いがついてるんですよそれ」

腕が届くところまでもう少しだったのに、途端距離を取られて拍子抜けする。「オイ、ちょっと待て」「やだ」などと取り付く島もない。

「いやいや、わかったわかった白状するからそんな寂しい事言うんじゃねェよ。匂いの元はこいつだよ」

こと、となまえの前にネタばらし。

「香水?」

なまえは首を傾げて俺に聞いた。

「ああ。戦利品だ」
「なんだ。私てっきり」
「てっきりなんだ?」
「どこかで、誰かの匂いがつくくらい近くで遊んできたのかと。すいません。だと思ったらなんだか気持ち悪くて」

普通なら。
妬いたのか、とか、女だと思ったのか、とか、俺から他のやつの匂いがするのがそんなに嫌だったか、とかなんとか、からかってやりたいところなのだが。からかってもこいつは慌てないし、自分の本当の心の話しかしないのだろう。まったくかわいいんだか憎らしいんだかわからなくなる。
とは言え、今のは嫉妬で(たぶん)間違いない。そう、思うと。

「はあ」

思わず溜息が出る。この一連の流れのせいでなまえは匂いに興味を失っているし。また本を開いて読書を再開しようとしていた。
しょうがねェ、ちゃちゃっと着替えてくるか、とコートを脱ぐと、そのコートをなまえに取られた。
何を思ったかそれを肩からかけて、読書を。

「なんで持ってくんだよ」
「え、いい匂いだからですけど……」
「ここに置いてんだから自分につければいいだろうが」
「つけたことないからつけすぎそう」
「返せッ!」
「あ……」

なまえはしばらく手を空中でさ迷わせていたが、なまえらしくさっと諦めてまた……。
仕方がないから俺が近付いてやると、なまえは相当この匂いが気に入ったのか、ふふ、と、上機嫌に笑った。
畜生。敵わねェ。


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20191103:これよ……。

 

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