「かっこいい」を連呼した/Ver.パーン


廊下を歩いていると、訓練場の方を歩いているパーン中隊長を見つけてがらがらと窓を開ける。「パーン中隊長ー!」おはようございまーす!と大きく手を振ると、中隊長がこちらに気付いて手を振り返してくれた。遠くて良く見えないが、きっとやや微笑んでくれている。うーーん。

「今日もメチャクチャかっこいいですねーーー!!」

廊下を歩く何人かがこちらを見るが、まあ大体はまた言ってるのか、という視線を向けて来る程度である。ややあって、中隊長が「ピピーーーーッ!」と笛を鳴らした。かっこいいに対しての返事であろう。私は満足してもう一度手を振ってから窓を閉めた。
彼がああしてくれるのでなんというか、雰囲気が甘くならなくて有難い。



ありがたい、と思っていたのだが、パーン中隊長にとってはそうではなかったらしい。あくる日、ぽとぽとと廊下を歩いているとパーン中隊長に笛で呼び止められ、笛で何か用事を仰せつかった。

「さすがにわからないですね」
「……ちょっと部屋から重い物を運び出したくてな、手伝ってくれないか」
「ああ」

事態はほとんど急転直下であった。確かに、力仕事なら私よりも適任が居たはずである。パーン中隊長は私を部屋に入れるなり、顔の横に手を付いて真剣な顔で言う。

「今日は、あの言葉は言ってくれないのか?」
「あ、あのことば……?」

声がひっくり返った。やめてくれ私はこの人の顔が好きで好きで堪らないのだからこんな至近距離で見られていたらそんな余裕は吹き飛んでしまう。はぐらかすために目を逸らそうとしたのだが、やや残念そうにするパーン中隊長を見てしまって視線すら動かせなくなった。

「か、っこいいです、今日も、お変わりなく」

「パーン中隊長、顔が、良すぎやしませんか」途切れ途切れになりながら、それでも望まれている言葉を言おうと必死に声に出す。「かっこいい」「かっこいいですよ」これはあれだけ物理的な距離があるから平気で言えている言葉であって、パーン中隊長の表情が細かく見れるような場所で言うのは、なんというか、普通に、照れる。

「本当に、かっこいいです」

私はだんだんなにがなんだかわからなくなってきた。
パーン中隊長はゆっくりと体を屈めて私と顔の高さを揃えて、ふわりと唇同士を重ね合わせた。離れる瞬間、ちゅ、と小さく音がした。
改めて真正面からお互いを確認する。「かっこいいです」私はそう繰り返すことしかできない。かっこいいものはかっこいいのだ。私があまりにも気の利いたことを言えないので、パーン中隊長はふわりと笑った。焼きたてのパンみたいな匂いがした。

「ありがとう」

「君も、いつも素敵だ」とさっきより深めのキスを貰った。素敵だ、なんて言われたら骨抜きである。この後普通に腰が抜けた。


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20200813
ツイッターのこちらのツイートから。

 

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