「かっこいい」を連呼した/Ver.カリム
なまえは、カリムの前ではよく笑っている。カリムの方は愛想が良い方ではないし「二人してにこにこしてたらバカみてェなバカにしか見えねェだろ」と言うので、カリムは困ったような、怒ったような、また、無理やり表情を固めているような仏頂面で、なまえの笑顔を受け止めていた。
「カリム中隊長は、今日もかっこいいですね」
「……」
「うーーーん? どの角度から見てもかっこいい」
「わかったからやめろ。その動き、不審な不審者にしか見えねェぞ……」
言われたなまえはうんうん頷きながら「声もかっこいいんだから困ったなあ」と真面目な顔で腕を組んでいる。それからやはり、正面に座っているなまえは酒に酔ったように「かっこいい」を繰り返していた。
満面の笑みで満足そうに「かっこいいですねえ」と言わ続けて、そろそろはずかしくなってきた。
カリムはなまえの頬をぎゅ、と掴んで「いい加減にいい加減にしておけよ」と頬を伸ばした。思った以上によく伸びるので、暫く伸ばして遊んでいた。
なまえは文句も言わずに伸ばされていて、そしてそのうちへらりと笑みを深めて言う。
「ほんと、かっこいい」
顔を掴んで遊んでいたので距離が近い。
カリムは思わずぐっと言葉に詰まり、良くない気持ちが起こりそうで体をそらす。そこで、自分ばかりが焦っていることに気づいて「オラ!」「痛い!?」思い切り頭突きをした。自分もなかなかに痛い。
「痛いですよ」
「俺だって痛ェよ!」
カリムはがたりと立ち上がり音量を上げて言った。青い髪の下に隠れた額と頬が赤くなっている。
なまえは飽きもせずカリムを見上げて「ふ、」と笑う。
「ん、その顔もいいですねえ」
カリムはまたなまえの頬の両方を掴む。「お前はなあ」凝りもせずかっこいいを繰り返そうとするなまえの口を塞いで噛み付くように言う。
「俺じゃない俺以外の男には言うなよ」
真っ赤になってそんなことを言うので、なまえはやはりにこりと笑う。あたたかく、どこまでもやわらかい笑顔だった。
カリムは、できるなら、その顔もここでしかして欲しくないのだが、となまえと同じようなことを考え、嘆息した。
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20200809
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