7日:君をあいする一番の方法


良くも悪くも有言実行の人であることは知っていた。
今日も目の前に置かれた箱は、さすがに開ける前に大黒の方へ押し返した。

「大丈夫です。間に合ってます」
「ハッハッハ、遠慮するな。せめて中身を確認しろ」
「中を見たなら食べろって言いませんか」
「言うに決まっている」

まあ、君の嫌いな食べ物だったら無理強いはしない。と大黒は箱をなまえの方へ固定するように押し続けている。テコでも引かない構えだ。

「今更だが、君苦手な食べ物はあるのか」
「強いて言うなら食べることが全て苦手です」
「面白い冗談を言うようになったな。そんな人間がいるものか」

なまえはまた昼食(今日もカレーパンだ)を中断させられているので仕方なく箱についているリボンを引っ張る。昨日のとは趣が全く異なるパッケージだ。パステルカラーのピンク青黄色、見ているだけで和んでしまう。

「これはあれですね」
「あれだ」
「砂糖を練って焼いて、さらに砂糖を挟んだ菓子」
「言い方。そんな言い方をされたら菓子は大抵そうだろう」

中身の菓子もパステルカラーのピンク青黄色である。これはマカロンだ。こんな可愛らしいお菓子を、この人が自分で買ってきたのだろうか。それとも、誰かに買いに行かせたのだろうか。

「マカロンですね」
「ああ、マカロンだ」
「ところで部長、マカロンを作る工程でマカロナージュってのがあるんですよ。ちょっと繰り返してもらっていいですか」
「マカロナージュな。覚えておこう。話のネタに位はなるかもしれん」

なまえは思わず吹き出しそうになったが、食べかけの激辛カレーパンを見てどうにか耐えた。大黒がマカロンだとかマカロナージュだとか言うのが何やら面白い。いや、よく良く考えればカレーパンも相当面白いかもしれない。

「どうした?」
「いえ」

いつもの無表情のままで、なまえはピンクのマカロンを大黒に渡した。自分はオレンジ色のマカロンを手に取り匂いを嗅いでみる。微かにみかんの匂いがした。

「美味いな」

ピンクのマカロンを齧る大黒は大変に面白い。なまえは今すぐ叫んで黒野を呼びたくなったけれどどうにか耐えた。今度会った時にそれこそ話のネタにしなければ。

「……今日は少し、楽しそうか?」
「そう見えますか」
「ああ。君は滅多に自分から余計な事を言わないからな」

俺に限り。と大黒が続けた。避難するような言葉だが、卑屈な響きはない。大黒の顔はにっこりと笑っている。なまえは「どう接していいか分からないだけですよ」と言って、今日は大人しく残りのマカロンを自分の方へ引き寄せた。

「気に入ってくれたか」
「マカロンはかわいいですから」
「チョコはかわいくないか?」
「どちらかって言うと美人なコたちでしたね」
「ふむ、そうか」

わかってきたような気がする、と大黒は笑い、今日は隣でカレーパンを食べて行った。カレーパンと言ってもなまえと同じものでは無い。

「明日は何がいい?」
「何も無いのが一番ですよ……」

なまえの困ったような声を聞いて大黒は「楽しみにしていてくれ」と笑った。その端末で今調べているのは仕事のことか。それとも流行りの菓子のことだろうか。
八月七日金曜……、あれ、明日は休みのはずだけど、まさか家にまで届けに来るつもりじゃないだろうな。なまえはしかし、触らぬ神に祟りなしだと、黙々とカレーパンの残りを食べてしまった。


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20200807

 

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