6日:君をあいする一番の方法


「こういうのは嫌いか?」と大黒はなまえにやたらとツヤのある分厚い紙袋を手渡した。色は赤。なまえは一度カレーパンを食べるのを中断して意味深ににっこりと笑う大黒を見上げる。
大黒と手元の袋とを交互に見て、ようやく袋を受け取った。

「くれるんですか?」
「ああ。どうだ?」
「どう……?」

大黒が隣の椅子を引き、なまえの反応を今か今かと待ち構える。ので、なまえは一応何かしらのリアクションをするべきだろうか、と袋の中身を取り出す。箱についているテープをはがしてそっと箱を開ける。
開けた瞬間、甘い匂いが立ち込めて、なまえはひととき、幸せな気持ちになった。暴力的な強制力のある甘い匂いだ。こんな箱が一体どうやってこの匂いを閉じ込めていたのか、わからない程。

「どうだ」

大黒がもう一度言うので、なまえは「はい」と応える。感想を求められていることくらいわかっている。ただ、なまえにはあまり気の利いたことを言おうという気持ちはないようで、現時点でわかっていることを淡々と言う。

「すごく、甘い匂いがします」
「だろうな! チョコだからな!」
「ひょっとしてこれ、今、食べた方がいいですか?」
「そうだな。感想が聞きたくはあるな。まあ、無理にとは言わん」

なまえはきらきらと上品に並ぶチョコレートたちを見下ろした。その中でも一際甘そうな、白くて丸いチョコレートを口に放り込んだ。噛んで割ると、更に匂いが変わる。これはいちご、だろうか。つまりいちごみるくのイメージで作られた一粒ということか。
口の中の温度でどんどん溶けて、とろりとした甘い匂いだけが残った。

「巷じゃなかなか人気だそうだが、君は好きか?」
「……私は」
「ああ。率直な感想を聞かせてくれ」
「私、は」

ぎゅ、と手を握り込む。
これはきっと若者が並んで買うような、人気で、しかも高級なチョコレートだ。そんなものを、わざわざ彼は買ってきてなまえに、他でもないなまえに感想を求めている。どう答えるべきか、なまえは大黒の視線を一身に受け止めながらじっと考えた。「そうですね」

「美味しい、と思います」
「そうか!」

それなからよかった、と胸に手を当てる大黒を、なまえはどこか他人事のように眺めていた。何故この人は。一体どうしてこの人は。こんなに喜んでいるのだろう。なまえはそっとチョコレートを紙袋に仕舞って大黒の方へそっと押す。

「けど、私の言う事なんてあてになりませんから。他の人にも食べさせて感想聞いたほうがいいですよ」
「何故そうなる。それは丸ごと君にやったんだぞ」
「いえ、私、ごめんなさい、一個食べちゃったのであれですが」
「何か気にかかることでもあるのか?」
「……申し訳ない、っていうか」
「構うな。俺がやりたくてしていることだ」

そうではない。
と口から出かかったけれど、このままここにいてはいつか突き返されると思ったのだろう。「おっと時間だ」などとわざとらしく時計を確認した後、さっさと立ち上がり、なまえに微笑みかけて言う。

「またな、なまえ」

今度は即答で美味いと言えるものを持って来よう、などと言うので、八月六日、なまえは頭を抱えた。
そうじゃないし、そんなの困る。


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20200806

 

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