いつかきっと/ジョーカー


リヒトが面白いものができたというのでふらりと家まで遊びにやってきた。インターホンを鳴らすといつもならなまえが出て来るのだが、今日はどたばたとリヒトがドアを開けて出てきた。「なまえは?」と聞くと「昨日遅くまでなにかやってたみたいで、まだ寝てるよ」それは珍しいことだ。と同時に、52を連れて来なくて良かったと思う。
あいつはきっと、寝てるなら起こすわけにはいかない、といい子ちゃんぶって放っておこうとするのだろうが、眠っているなまえというのが気になってそわそわもするのだろう。そういう弟の姿を見るのは鬱陶しい。

「ちょっと顔見て来ていいか」
「ん? いいよ」

眠っている妹の部屋に男を上げるこいつもこいつだが、まあ、俺がなまえになにかするはずはないと信頼しているのだろう。
家の二階に上がると、なまえの部屋の前でぴたりと足を止める。一応ノックをするが返事はない。音を立てないようにドアノブを回して部屋に入る。

「……く」

見るなり笑ってしまった。その姿は学校でリヒトが寝落ちしている時とまったく同じ格好で。力なく机に突っ伏していた。まだ途中らしいノートをあまりまじまじと見るのも悪いかと、顔にかかっている髪をそっと耳にかけてやる。
そのあと、さらさらとした髪ごと頭を撫でる。
何度も繰り返してしまうと起きてしまいそうだったから、ほんの二、三回だ。

「なまえ」

小さく名前を呼んで髪を一房持ち上げる。
そして、音もなく唇を寄せて、ぱらぱらと髪を落とした。
弟は、家族でさえも引く程になまえに惚れており、小学校に通う前からなまえ、なまえとなまえについて回っていた。ついにはなまえが選んだから、とそれだけの理由で同じ高校に進学。なまえはその理由を聞いた時「それは、」と何かいいかけてやめていた。なまえは、そういうのを嬉しいとは思わない女だ。けれど、52にはそれがわからないのである。それでも、自分は誰よりもなまえを好きだと、あいつは思っている。

「さて、それはどうかねェ」

俺はじっとなまえの寝顔を見下ろす。
生まれた時から知っているが、年々、大人の女の顔になっていく。52はそれに焦っているし、大学は多分、なまえがそこだから、という理由では決めさせてもらえないだろう。というのも最近よく52は「なまえは進路どうするんだろうな」とぼやくのだ。そんなことくらい教えて貰えばいいのに「聞いたらいいだろ」と俺が言っても返事がないので、なまえは52に教えないようにしているようだ。

「……なまえ」

俺はもう一度なまえの髪を撫でる。
俺にとっても特別な女の髪に丁寧に触れた。

「なまえ」

愛してるぜ。
ずっとずっと、昔から。


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20200803↓おまけ

「? なんか、なまえの匂いがする。……会ったのか?」
「寝てたけどな」
「寝て……、お前っ! なまえになんか変なことしてねェだろうな!?」
「変なことってなんだよ」
「変なことは変なことだろ!」
「してねェよ。ちょっと頭撫でて髪にちゅーして来ただけだ」
「は!?」
「変じゃねェだろ」
「変だろ!」
「じゃあお前は寝てるなまえを見ても何もしたくならねェんだな?」
「ね、寝てるなまえ……、お、俺はいいんだよ! お前は駄目だ!」
「あーわかったわかった、興奮するな鬱陶しい」
「……お前」
「なんだよ」
「……なんでもねェ」
(まさかお前も好きなのか、なんて聞けなかった)


 

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