飲み会


私はあまりお酒に強くない。飲めない訳では無いけれど量を飲むとすぐに気持ち悪くなって頭痛を起こした後食べたものを根こそぎ吐く。
会社の飲み会はまだいい。それほど楽しい訳では無いのでなんというか…セーブができるのだが、友人同士の楽しいやつだとついつい時間まで忘れて遊んでしまい飲みすぎる、ということがよくあった。
52のこともあるので最近は気をつけていたけれど、久しぶりにやってしまったという感じだ。
家に帰ってくると玄関でしばらくじっとしていた。ここまで吐かなかったのが奇跡だと思う。
日付が変わるか変わらないかという時間なのだけれど、52は起きていてくれたようで「大丈夫か」と部屋から出てきて私の隣にしゃがみ込んだ。大丈夫だ。ただの飲みすぎで、時々人が死ぬが、私のやつはそこまでじゃない。

「大丈夫……、」
「本当か?」
「52、ちょっとリビング戻っててくれる?」
「なんでだ?」

お願い、と言うと渋々という様子で彼はリビングに戻って行った。この短い廊下で三度も振り返るのだから、52も大概である。
私は這うようにしてトイレまで行って、何とか塞き止めていたものを吐ききってしまった。勿体ないが、自業自得だ。
トイレットペーパーで雑に口元を拭って流すと、体がやや軽くなる。吐くまで飲むと逆に楽というのも変な話である。
振り返ると52と目が合った。
リビングのドアからこちらを見ていたらしく、とんでもないものを見るような目で驚いている。見せたくないからリビングにいてくれと頼んだのに。
52は走ってきて私の前で急停止する。

「だ、大丈夫なのか!?」
「あ、うん。逆に」
「逆に!?」

こんなに狼狽えている52を始めてみた。私は口元をタオルで押さえて52を遠ざける。胃液と言うか胃酸と言うか、変な臭いがしているはずだ。
52はむっとして、私にしがみつくように服を掴む。

「何でそんなになるまで飲むんだ」
「楽しくてつい」
「本当に大丈夫なんだな?」
「びっくりさせてごめんね。大丈夫」
「本当に?」
「本当」

じ、と52は私の顔を見上げて、その内、ほっと体から力を抜いた。「なら、いい」悪いことをしてしまったと反省する。改めなければならないところはたくさんある。

「水、飲むか?」
「ありがと。でも動けるうちにお風呂入るよ」
「わかった」

本当に、一度吐いてしまえばだいぶ楽になる。さっさとお風呂から出てリビングで52に水を貰った。隣に座った52がそっと尋ねる。

「酒って、そんなにいいものか?」
「ん? んー、そうだね。私は結構好きだ」
「こんな風になるのに?」
「こんな風になるのに」

不可解だ、と顔が言っている。しかし、私の言うことが気になるようで、52はこちらの様子を伺っている。なにか、ちょっとだけ悪いことを考えているのかもしれない。

「俺も飲んでみていいか」
「お酒は二十歳になってから」
「……一口だけ」
「駄目。でも、そうだね、」

52は大きな紫色の目をこちらに真っ直ぐ向けている。整った顔だ。今は可愛いけれど、もっとこう、男の子の顔になっていくのだろう。背も伸びるし、声も変わる。
初めて会った時は病的に白い顔をしていたが、ここへ来て、だいぶ顔色も良くなった。

「52が大きくなった時、一緒に飲めたら楽しいだろうね」
「俺が」
「そう。きっとかっこよくなる」
「……二人して吐いてたらどうするだ」
「あははは! いや、それはそれで、うん」

できればどっちかは介抱する側の方が楽なのだろうけど、二人して朝寝坊する姿が見えた気がして眩しくなった。

「楽しいだろうね」

約束が出来なかったのは、私たちが弱い証拠なのだろうか。


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20200801

 

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