君が駄目になる数秒間、火縄反撃編


「お前もたまには、墓参りでもしたらどうだ」と火縄に墓参りに誘われた。人を誘うものでもないと思うのだが、火縄のお父さんにはそれなりに世話になっている。行かないのも薄情かと、祖母の分の花も買ってついて行った。

「二人分?」
「軍人時代の親友のな」
「ああ」

聞いたことがある気がした。トウジョウ、と言ったか。焔ビトになったのだったか。「撃ってやれなかった」と火縄は言ったが、私はそれこそが正しいような気がした。わかった、と撃ち殺してしまえる方が問題であるような気がした。冷たさの象徴みたい思える。
だから、その弱音について、私は何も言わなかった。
私の祖母、火縄の父、そして最後にトウジョウくんの墓の前。私は火縄と軽く手を合わせて、あとは二人でと考えて先に霊園の外で待っていた。

「悪いな。待たせたか」
「いや。大して待ってないよ」
「買い物をして帰りたいんだが、いいか」
「今? シンラとアーサーが明日行くし、大丈夫なんじゃないの」
「なら、どこかで食事でもしよう」
「? 昼ご飯? 朝作っておいたから帰ればあるけど」

火縄は私の頭をがしりと掴んだ。「な、なに」ただでさえ鋭い眼光をさらに鋭くして私に言う。

「鈍感にも程がある」
「なんだとう」
「もう少し二人きりで居たいと言ってるのがわからないか」
「……」

目を合わせているのが恥ずかしくなったため趣味の悪い帽子と目を合わせた。『ハト時計』と書かれている。どんなセンスだ。嘆かわしい。
はあ、と火縄は私の頭から手を離し「で、どうなんだ」と聞いた。

「じゃあ、流行りのタピオカでもキメるか」
「それは……どの店がいいんだ」
「マキは鹿だかトナカイだかの店がおすすめだって」
「店名を言え」
「多分わかるよ」

私はふらふらと町の中に入っていく。
うろ覚えの言葉を頼りに歩いていると、どうにか目的の店にたどり着いた。私は「一番カロリー高いやつ」と頼み、火縄はめちゃくちゃ困った顔をしながら「同じのを」と言っていた。
タピオカの入った飲み物を受け取ると、公園のベンチに座って太いストローに口をつける。
学生の時にも似たことがあったようななかったような。あれはどこだったのか。上手く思い出せない。
私は上手くタピオカを吸えず、最後にカップを傾けてかきこむように飲みきった。なるほど、これは高カロリーだ。

「よくそんなにスイスイ飲めるな」
「美味い。一回は流行に乗っとくもんだ」
「そうか……?」

火縄は飲み物の甘みに耐えられないのかやたらとゆっくり飲んでいる。暇になってしまったので立ち上がって近くの小石をサッカーボールかわりにして遊んだ。石礫に炎を纏わせて攻撃する第三世代とかいそうだな。そうしたら技名はかえんボールだろうか。

「一人で楽しそうだな」
「楽しいよ。私は大抵のことは楽しい」
「知っている。お前は昔から何かといえば一人で勝手に盛りあがっていたしな」
「だね、そんで火縄は何故かついてきてた」
「……」

かえんボールについて考えて、石礫に炎を纏わせようとすると上手くいかずに石が燃え尽きてしまった。
仕方なく新しい石を探してぶらぶらしていると、火縄が不満そうにこちらを見上げていることに気付いた。

「なに?」
「今は二人きりだ」
「あん?」
「名前」

「ああ」そうか「名前ね」新しい小石を見つけたのでそれをまた蹴りあげて遊ぶ。かつ、かつ、リフティングをする。
ここでようやく、飲むスピードがゆっくりなのは、さっき言っていたのと同じ理由かもしれないと思い至る。だとしたら、私は、悪いことをした。

「ごめんね、武久」
「いつものことだ」

何に対して、とも明言していないのに、彼には分かってしまったらしい。
カリムと言い火縄と言い、いつも大変に察しが良い。それはなんというか、私に恋をしているから、とかではなく、ただ単純に優しいからなのではないかと、最近は考える。
つまり私は、優しくない。

「きゃああああああ!!」

悲鳴が聞こえて、直ぐにそちらに目を向ける。石は一度高く蹴りあげる。公園の出口あたり、地面に転ばされた女性と、走り去る男が見えた。ひったくりだった。
私は石が落ちてくるタイミングで体を捻って石を蹴る。石は、逃げていく男の後頭部に命中した。
偶然近くにいたらしい警察官にひったくりを引渡し、主婦らしい中年の女性にひとしきりお礼を言われると火縄の隣に戻ってきた。
火縄はなんだか寂しそうな顔をして私を見ている。

「なまえ」
「うん?」
「俺と離れていた時の、お前の話を聞かせてくれ」
「んん? 第一にいた時?」
「高校を卒業した後からのお前のことは、よく知らない」
「面白い話じゃないと思うけど」
「いいや、面白い」
「ええ……?」
「面白いに決まっている」
「ハードルをあげるな」

私が何から話せばいいのか考えていると火縄はさらに言う。

「好きな人の話が、面白くないわけが無いだろう」

まだ慣れないな、と反応に困りながら、私は私のことを話した。火縄は怖いくらいに真剣な顔をして聞いていて。
ああ、私のことを好きな男は、どうしてこんな目ばかりするのだろう。


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20200731ひなわさんのたーん

 

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