専属ボディガードの日常/大黒


「助けてやろうか」
それはきっと、悪魔の囁きだったのだ。



自慢ではないが私はなかなか強い。灰島が誇る死神といい勝負ができるくらいには腕が立つ。まあだいたいそんな所を買われて大黒部長に恩着せがましく助けられ、現在は大黒部長のボディガードとして日々を過ごしているわけだ。ボディガード(奴隷)と言うような、酷い目に会うこと覚悟しながらあの日、手を取ったのだけれど。
細心の注意を払いながらぼんやりとしている私のところに、部長は走り込んできて「なぜこんな所にいる」とイライラしていた。
ここが一番全体を見通せる。不審者を事前に処理するにはここ以上に良い場所はない、そんなことを話すと部長は大きくため息をついた。

「俺のボディガードとしての自覚が足らないんじゃないか」
「ちゃんと見てましたよ。その証拠になにもないでしょう」
「常に近くにいるのがボディガードだろ」
「近くに居たら何かあった時部長の目の前で処理しなきゃならないじゃないですか」
「それでいい。俺のそばにいろ」
「仕事がしづらいので嫌です」
「いいからいろ」
「寂しいだけなら優一郎くんでも近くに置いておいたらいいじゃないですか」
「!? オイオイオイ、いつの間にそんなに黒野と仲良くなった?」
「先日飲みに誘われて」
「行ったのか!!」
「まあ」
「休みなんて与えるんじゃなかった!!」

衣食住は保証され、ついでに休みもあるし、(なんとなく制限付きだが)自由さえ与えられてもいる。灰島で友達もできた。一通りの苦痛を覚悟した私は肩透かしをくらい、ぎゃあぎゃあと騒ぐ部長を見上げる。

「やっぱり、片時も離れず俺の近く、せめて目の届くところに待機していろ」
「……」
「返事をしろ」
「……」
「なまえ」

私は、ボディガードとして最善のことをしているはずなのに、どうしてそう責められなければならないのかわからないが、部長がそうしろと言うのだからそうする他ない。

「まあ、じゃあ、そう出来そうな時はそうします」
「よし。常にそうできるように努力しろ」
「はいはい」

部長について行くために立ち上がる。ここに来た時とは打って変わってご機嫌だった。私はすかさず一つのお願いごとを口にする。

「ところで部長、今度お姉さんとお茶行くのでおこづかい下さい」
「いいだろう」

給料の計算が面倒くさいから欲しい時は都度申告しろ、と部長が言ったので、私はそのようにしているのだけれど、毎回普通の会社員の、三ヶ月分くらいのお金をぽんとくれるので一度貰うと暫くは困らない。一度だけ「おかしいです」と言ってみたことがあるのだが「足らないか?」と返されたので言うのはやめた。きっと金銭感覚がバグっているのだ。「このくらいで足りるか?」と例のごとく多すぎる。私はどこにお茶をしに行くのだろう。まあ。貰えるものは貰うけれど。

「はい、ありがとうございます」
「楽しんでこい」

たぶん、そのお茶会に優一郎くんも来ることは、言わない方がいいのだろう。


-----------
20200727:くろのよりとんでもねえ感を出したい…

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -