次こそは/カリム


なまえの手のひらがとてもあたたかいことを、最近はじめて知った。
手を合わせたり擦ったり、揉んでみたりしているとなまえはくすぐったそうに笑い「そんなに珍しいですか」と言った。
カリムは指摘されて始めて恥ずかしくなり、ゆるく指を絡めて手を繋ぐだけに留め、なまえからぱっと目をそらす。けれどなまえはこちらを見ているのがわかる。彼女にとって魅力的な横顔に見えていればいいが、顔は赤いし、格好良いには程遠いかもしれない。
カリムの部屋で、ベッドの端に座り、二人はぎこちなく並んでいる。

「悪いな。こんなことで浮かれてよ」
「悪いってことはありませんよ。私は嬉しいです。なんなら、もっと浮かれてもらっても大丈夫」
「そんなに浮かれてたら、宙に浮いて浮かんで、どっか行っちまうぜ」

不貞腐れたようなカリムの言葉に、なまえは弾けるように笑い「それは困りますねえ」と言いながら、ぎゅうと腕ごと抱きしめた。「ちゃんと捕まえておかないと」なんて、はにかみながらカリムを見上げる。
カリムはと言えばそんな恋人の様子にさらに顔を赤くして、されるがままになっている。
振り払うだなんて、そんな勿体ないことはできるはずがない。二人きりの時間だって貴重なものだ。できるなら、時間が許す限りくっついていたい。

「そうだな……」

腕に巻き付くなまえを見下ろして、細く柔らかい髪を撫でる。

「そのまま離さず掴んで、捕まえててくれ」

腕一本じゃ足りなくて、体ごと抱き寄せ、ごり、となまえの頭とカリムの顎が擦れ合う。「痛いですよ」「悪いな」とは言うものの、離す気はない。カリムはなまえの体をぎゅうぎゅう抱きしめてそして少しだけ隙間を空け、自然な流れで顔と顔とを近付ける。
ちゅ、とカリムの唇がぶつかったのはなまえの頬の辺りだった。頬と言っても限りなく唇に近い頬だ。顔を話すとなまえはへらりと笑った。

「今日はかなり惜しかったですね」
「……まさか、避けてねェよな?」
「避けませんよ」

「さて、そろそろ休憩時間はおしまいですね」なまえは立ち上がって体を伸ばす。「もうひと仕事しましょうか」どうにも彼女の前だと格好が付かない。カリムはこれが本日最後のチャンスだと、もう一度なまえを抱き寄せて。

「……避けてるじゃねェか」
「いやこれは、びっくりして」

手のひらに遮られ、なまえの柔らかい指先が口に当たっている。仕方がないと甘く指を噛み、奥までくわえてべろりと舐めた。しょっぱい。なんだか、熱の上がるしょっぱさだ。

「か、カリムさん」
「次は絶対に絶対だ」

このセリフももう何度目かわからないが、次こそは、本当に次こそは成功する。カリムはそう確信していた。


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20200724

 

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