手を繋ぐには至らない/紅丸


ヒナタとヒカゲ程ではないが、俺にとっては同じように低い視線から、なまえはにこりと笑って言う。藍色の風呂敷は角張っていて重そうだ。中に入っているのは本だろう。

「本を返しに行くんですが、何か外に用事とかありますか? 必要なものがあれば帰りに買ってきます」

なまえは週に一度か二度、貸本屋へ本を借りに行く。買えばいいのにと言うのだが、詰所にあまり私物が増えすぎるのは、などと言って、実際数冊しか所持していないようだ。そんなことは、俺も紅も気にしないのだけれど。

「そうか。悪いな。メモを取ってくるからちょっと待っててくれ」

それよりも、だ。俺には目下気になることがある。その紅丸が、どうやらなまえに惚れているらしい。らしいと言うより確信だ。俺にはわかる。し、紅丸だって問い詰めれば否定はしないはずだ。話は詰所内だけでは留まらず、浅草の人間にも噂程度に囁かれて広まっている。彼らの最近の酒の肴と言えばまずなまえと紅丸の進展具合の話である。俺も最近よく聞かれるのだが、残念ながら進展などしそうにない。
だからまあ、これもまた余計な話だとは思うのだが。「紺炉か、どうし」ふらふらと歩く紅丸を見つけて腕を掴み、問答無用で引き摺って行く。「オイ、てめェ一体なんのつもり、」恩に着てくれとは言わないが、少しくらい感謝してくれてもいい。
買い出しのメモこと、我らが大隊長、新門紅丸をなまえの前に放り出す。

「よしッ、行ってきてくれ」
「えッ」
「…………」

紅丸に睨まれながら、これはお前にとっても悪い話ではないのだと遠回しに伝えてやる。

「買い足さなきゃならねェもんがかなりあってな。大荷物になるだろうから、若と二人で行ってきてくれ」

これだけ言えばきっと、俺の意図は伝わっただろう。案の定、悪い気はしないようで紅丸は何も言ってこない。ただ、なまえは自分の用事に紅丸を付き合わせなければならない為気が引けるらしく、慌てて俺と紅丸を交互に見た。

「そ、そんな、気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ。私は事務仕事ばっかりしてますけど一応浅草の火消しなんですから、荷物くらい……」

感謝されている、気はしないが、紅丸はこちらに一瞥をくれた後、表へと歩き出した。

「行くぞ」

なまえは本を抱えて慌てていたが、「頼んだぜ」と俺が言えば、すぐに頭を下げて紅丸の後を追いかけた。しばらく二人を見送っていると、その内紅丸がなまえの抱えている風呂敷を奪い取った。なまえは小さく悲鳴をあげながら慌てている様子だ。しかし紅丸はなまえに荷物を返さない。しばらくあれこれ騒いでいたが、やがて折れて二人は並んで歩いて行った。俺は片手で拳を握ってガッツポーズを作る、ああ、けれど、紅も緊張しているんだがなんなんだか。風呂敷を担ぐ手が、なまえとは反対側なら完璧だったのに。


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20191008:紺炉さんも相当好きなんですけどの舞

 

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