2月:フォンダンショコラ


「お茶会だ」となまえは気合を入れてデパートで高めの紅茶も買っていた。俺はなんとなく、なまえは俺を平気で抱え込めるだけの稼ぎがあり、貯金もしっかりしているちゃんとした大人なのだと思っていたが、最近は、貯金があるのは自分では使うことがほぼないからなのだとわかってきた。
服もアクセサリーも最低限という感じで、おかしくは無いがあまり自分のことに関心がないようだった。
だから一見して年齢よりも落ち着いた大人に見える。
しかし、俺という理由となまえのやりたかったことが噛み合うと途端子供のようになる。
今がそうだ。
買ってきたチョコレートを片っ端から開けて並べて、紅茶まで用意してやりきった顔をしている。俺も楽しいのだが、買ってきたものよりも、なまえが作ってくれたものが気になる。

「食べてもいいか?」

事前に言っていた通りに温めて、フォークを握ってなまえに聞く。なまえは「もちろん」といつもよりうきうきとした笑顔で言った。
さくりとフォークを入れると、中からとろりとチョコレートが出てくる。「!」外側はまだ冷たいのに中だけ温まっていてなんだか不思議な食感だった。チョコレートの菓子、なんてどれも同じ味になりそうなのに、ブラウニーとは明らかに違う口当たりに、あっという間に半分を食べてしまう。

「美味い」
「そっか。よかった」

なまえは「じゃあ私も」と、自分の作ったものはそっちのけで買ってきたものを食べている。「あーー美味し」と楽しそうである。「52も遠慮なく食べてね」と言われて、なまえに貰ったフォンダンショコラの二つ目をあたためる。
三つ食べたところでなまえがそっと口を挟んだ。

「買ってきたやつはいいの? もしかして遠慮してる……?」
「一通りはさっき食べた」

どれも美味かったし、きっと家で同じものを作ろうと思うととんでもなく大変なのだろう、という気がした。「美味かった」となまえの菓子を飲み込みながら答えた。「なあ」

「ん?」
「なまえはそれ、食わないのか」
「え、これ?」

なまえは自分用に取り分けたくせに手をつけていないフォンダンショコラを指さした。俺がこくこく頷くのを見てなまえはそうっと皿ごとこちらに差し出した。

「食べる?」
「いいのか!?」
「いいよ、いいけど、あの、」
「やっぱり駄目か……?」
「あげる。食べて」

なまえは皿を完全にこちらに押し付けて吹っ切ったように笑った。「買ってきたやつはまあ、また食べたい時に食べてね。もう一通りくらい残しておくから」「わかった」別になまえが欲しくて買ったのだから、なまえが食べてしまってもいいのに。俺がそんなようなことを提案するとなまえは「いや、あの、助けると思って」と言ったので食べることにした。

「ごちそうさまでした」

手を合わせて顔を上げると、なまえは難しい顔をしてチョコレートを食べていた。「大丈夫か?」「大丈夫」たぶん、と続いた。
俺が首を傾げると、なまえは俺に紅茶をすすめてくれた。なまえがこれまた気合を入れていれてくれた一杯なので、しっかり味わって飲んだ。なまえはそれからもしばらく難しい顔をしていた。

「晩御飯、何食べたい?」
「なまえが作ってくれるなら、なんでもいい」

なまえは片付けも放り出して「うーん」と唸りながらソファに体を投げ出していた。ばたばたと一人で暴れている。
珍しいことだなと思いながら、ゆっくり紅茶を飲み干した。


-----------
20200713

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -