12月:大晦日


寒いから家で待っていればいい、と言ったのだが、52は頑なに譲らず、駅で待っているからと言い続けていた。「寒いよ?」「寒くない」と52は意思の強い目をこちらに向けて言った。「寒くない」と繰り返す声が、なんだか、色んな意味を内包している気がして私は「なら駅で待ってて」と言うしか無かった。
ほぼ終電になってしまい申し訳なさしかないのだが、仕事が終わると家に電話をして到着予定時間を伝えた。52はマフラーに顔を半分うずめて立っていた。「52」呼ぶと、ぱっと顔を上げてこちらに寄ってくる。

「お待たせ。じゃあ行こうか」
「ん」

もう三十分程で日付が変わるのだが、人通りは多い。大晦日だから当然と言えば当然だが、大人は大人で、子供達は子供達で不思議な気持ちになるものだ。
52は走ってきた子供を避けてこちらに寄った。そして彼はしばらくその子供の背中を視線で追って正面に意識を戻したところで、私が見ていることに気付いたようだ。「なんだ?」とキョトンと首を傾げる。本当は何でもなかったのだが無理やり用事を作って聞いた「眠くないかと思って」52は「大丈夫だ」と答えた。
そして断続的に、ごおん、と低く長い鐘の音が響いている。音はだんだん近くなる。鐘楼の前は行列が出来ていて、主に子供連れやカップルなんかが鐘をつく為に並んでいた。
52はその様子をじっと見つめている。

「鳴らす?」
「えっ」

列は長いように見えるが、そう待つことはないだろう。なにせ鐘を鳴らすだけなのだから。大抵の場合一発鳴らしたら次の人だ。

「鳴らそう」
「わ、わかった」

私も久しぶりにやってみたくなって52と列に並び、使い込まれた縄を二人で持って大きく引き、思い切り鳴らした。あまり良い音とは言えないし、私の方が楽しんでしまったかもしれない。
それからも嬉嬉として配られるお菓子の袋を貰ってきて、甘酒、豚汁と一通り楽しんだ後、火に当たった。52はどう反応するべきか分からないらしくぴったり私についてくる。
やれることは全部やった、はずだ。

「さて、そろそろ帰……、あ」

そこで時間を確認すると、丁度日付が変わったところだった。「ん?」52がスマホの画面と私の顔とを交互に見ている。

「新年だよ。あけましておめでとう。52」
「あ、あけまして、おめでとう……」
「今年もよろしくお願いします、だね」
「……俺の方こそ、今年も」

宜しく、と言われたような言われないような。彼の性格からすると、一方的に世話になっている(と彼は思っている)自分から同じようによろしく、と言うことに引け目を感じているのかもしれない。

「帰ろう。帰ったら帰ったでお蕎麦あるからね」

インスタントだけど。と私が笑うと、52はまだなにか真剣に考えているようで、こくりと静かに頷いて私の隣に立った。いつか、もっと気軽に考えていることを教えてくれる日が来るだろうか。


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20200710:12月番外編

 

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