20191031/火縄


「今月はハロウィンがあるな」

と、十月の一週目くらいに、火縄は言った。なまえは、「?」と首を傾げながら「そうだね」とだけ返す。もしかしてなにか言いたいことでもあっただろうか。そんな気もするが、まあいいか、と放っておくことにした。緊急ならば言ってくるだろう。

「再来週の今日はハロウィンだな」

そんなやりとりは忘れた頃に、また、火縄が言った。なまえはまた「?」と首を傾げて「そうだね」と返した。返してからはたと思い出す。こんなやり取り十月の前半でもしたな。もしかして、ハロウィンが楽しみなのだろうか。いつも、そんなに楽しみにしていた様子はなかったけれど、今年は新入隊員もいるし、気合を入れているのかもしれない。

「もう来週がハロウィンだぞ」

流石に不自然に思えてやや返事を躊躇う。「……」なにか突っ込んで聞いてほしそうな雰囲気がある。なにか手伝わせようということだろうか。だとしたら面倒だし、緊急なら回りくどくなく言ってくるはず。「そうだね」と、なまえはやはり、それだけ返した。

その後は、もう、日毎のカウントダウンだった。毎日飽きもせず二人になるタイミングであと何日だな、と言ってくる。

「……」

流石に突っ込んでやるべきか迷った二日前だったが。やはり、面倒事の予感がして「早いもんだね」などと答えた。明日。もし明日も同じことを言ってくるようなら聞いてみるかと決める。

「なまえ」
「ハロウィンの話?」
「ああ。明日だが」
「うん。何? 何か手伝った方がいいこととかあるの?」
「それはないが」
「ああそう、じゃあいいいいたたたたた、引き止めるのに頭を掴むなってば!」

ぱ、と手を離されてから、なまえは距離を取りながら振り返る。

「で、何?」
「明日、なにかハロウィンらしい菓子でも用意しておこうと思うんだが、お前は何がいい」
「……ハロウィンらしい菓子……?」
「ああ。折角だ。用意するなららしいほうが良いだろう」
「はあ、そう? でも、火縄の料理ならみんな喜んで食べると思うけど。何作らせても美味しいし」
「……、……質問の答えになっていない」
「はいはい……、じゃあ、うーん……」

なまえはやや考えて、そのうち、ああ、と手を打った。それなら。

「……かぼちゃプリン、とか?」
「そうか。参考にしよう」

全員に聞いているのだろうか。だとしたら、彼らしい徹底ぶりだとなまえも自分の部屋に戻った。



ハロウィン当日の朝は、ランニングから帰ってくるとキッチンへと連行された。「何こんな朝から」「いいから来い。悪いようにはしない」「ああそう、わかった、わかった行くから引き摺るのをやめろ!」何故こんな目にあっているのか不思議でならないが、火縄はそんななまえの様子など歯牙にもかけずに冷蔵庫から昨日の夜に作ったらしいかぼちゃプリンを取り出した。

「おお、かぼちゃプリンだね……」
「味見してくれ」

不味いものをみんなに振る舞うわけにはいかない、と火縄は言うが、火縄の料理が不味くなる日が来たら第八は終わりだとなまえは思う。
不味いわけがないとわかっているから、なまえはやや上機嫌になってプリンを受け取る。

「ふーん、トリックオアトリートーってね」

受け取る、が。
火縄が突然手の力を強めてプリンを離さないからよくわからない沈黙が流れる。

「え、なに、食べない方がいい?」
「いや……、食べてくれ」
「……?」
「……」

なんだったのか、火縄はそっと手を離し、いつもの眼力でなまえの一挙手一投足を見守っている。
口に入れると、期待以上の口溶けだった。

「うん、おいしーよ。みんな喜ぶね」
「……そうか」
「え、なに?」
「……いいや、美味いのなら良かった」
「うん、流石火縄だ」
「……そうか」
「ごめん、なんで残念そうなの?」

気にするな、と言ったので、気にしないことにしておいた。
相変わらずわからない奴だ。


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20191101:(その言葉が出るのなら、悪戯されてみたかった、などとはとても言えない)

 

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