20200614/学パロ52


俺と兄とは誕生日が同じである。珍しいことだが、まあそういうこともあるだろう。そんなわけで、毎年、誕生日はなまえとリヒトも一緒になって誕生日会をする。なまえは数年前からケーキを手配してくれる。なまえの手作りだったり有名店のものだったりいろいろである。ハズレはない。それぞれから誕生日の贈り物を貰うのだが、なまえはこれまた毎年兄貴と選びに行っている。今年もきっとそうなのだと思うと溜息が出る。今年の誕生日は日曜日なので、きっと前日にでも買いに行くのだろう。決まりきったことなのできっと覆すこともついていくこともできない。
はあ、とため息を吐いてとぼとぼと一人、帰り道を歩いていた。

「52」
「!」

一人が二人になった。声でわかる。なまえは小走りで後ろから俺に追いついて、隣を歩き始める。こんなことは相当に珍しい。わざわざ、なまえが走ってこっちまで来るなんて。

「誕生日のことなんだけれど」
「た、誕生日?」
「ちょっと贈り物を相談したいから、土曜日一緒に買いに行かない?」
「な、」

なんだって。今。なまえは何と言った? 土曜日? 兄貴ではなく? 俺と?

「い、いいのか?」
「? 頼んでるのは私だけど……、52は暇してない?」
「してる。暇だ。行こう」
「よかった。なにがいいのかわからなくて」

なまえはほっとしたように笑っている。これは夢ではないだろうか。こっそり腿のあたりを抓ったがちゃんと痛い。夢ではない。夢ではないらしい。なまえから遊びに誘われるというのはどういうことなのだろう。やや混乱している。なまえは俺が好きということでいいんじゃないだろうか?

「ジョーカーさんって何が好きなの?」
「ん? 兄貴?」
「誕生日プレゼント。どうせなら好きなものがいいよね?」
「なんで兄貴なんだ」
「なんでって、日曜、誕生日でしょう」
「……兄貴の誕生日プレゼントを一緒に選ぼうって話か?」
「そうだよ?」
「なんで」
「今年はほら、チョコとか貰ってるし。たまにはこっそり選んでみたくて」
「……」
「え、駄目?」
「行く」
「でもなんか嫌そ、」
「嫌じゃない。行く」

夢だった。
俺は土曜日、なまえの私服を見るまでずっと不機嫌であった。



気持ちを入れ替えてなまえと一緒に少し遠出してデパートに来た。天気は良くも悪くもない。出るときも傘を差すほどでもない雨が降っていた。

「ねえ、こういうのはどうだろう」
「いいんじゃないか」
「こっちは」
「いいと思う」
「……これ系は流石にないかな?」
「大丈夫だろ」
「どうしよう。このままだとエコバックとかになりそ……」
「なんでエコバックなんだ」
「私が欲しいから。ほら、もうすぐレジ袋有料」
「いいんじゃないか、それならそれで」
「いやいや、あ、あれはどう?」
「悪くない」
「……52」
「どうした?」

なまえは呆れ返った様子で「どうしたじゃないよ」と首を振った。

「真面目に考えてる?」
「か、考えてる」
「本当に?」
「本当に」
「ほとんど一人で選んでるようなものなんですけど」

じと、と睨まれてもあまり真面目にやる気にはなれなかった。ただ、役に立たないと思われるのも嫌なので「なまえが選んだやつならなんでも喜ぶだろ。だから、なんでもいいんだ」と言った。言ったが、なまえは「そういうことじゃなくて。好みとか趣味とかを聞いてるんだけど」と困っていた。あいつへの贈り物なんてその辺のツナ缶とかでいいのに。

「じゃあ、52は」
「ん?」
「52の誕生日プレゼントも一緒に買おうと思ってたから。52は欲しいものないの? なんでもってわけにはいかないけど」
「俺」
「そう」

しまった。この展開は想像していなかった。俺は正直なまえが選んでくれるものならなんだって嬉しいし、何が欲しいかと言われればなんでも欲しいということになる。「欲しいもの」「うん」考えるのに時間をかけすぎたせいだろう。なまえは待ちくたびれた様子で丁度すぐ近くにディスプレイされていたシャツを指さした。

「あれとかどう。かっこいいし、似合うよ」
「わかった。なら、それがいい」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「適当すぎる」
「適当じゃない。それがいい」
「いやいや。そんなわけないじゃない」
「なんで否定するんだ。俺がそれがいいって言ってるのに」
「ええ……? 本当に……? 本当の本当? 後悔しない?」
「しない」

本当の本当だ、と俺は言うと、なまえは足を止めて先ほど指さしたティーシャツを掴み、値段を確認した上でレジに持って行った。なるほど。なまえはああいうのが好きなのか。シャツは黒字に白い文字で『日進月歩』と書かれていた。いい言葉だ。



なまえはそれから悩みに悩んだ挙句、兄貴にはドッグタグのような形をした本革のキーホルダーを選んでいた。桜の模様が彫ってあり、名前まで入れて貰って、俺としてはあまり気分はよくないが、悔しいけれど、それは兄貴に似合いそうだった。
誕生日の当日に兄貴はそれを受け取って、何故か懐かしそうに笑ってなまえを抱きしめた。俺は慌てて引き剥がす。本当に油断ならない兄貴である。リヒトも黙って見ていないで止めて欲しい。

「はい、おめでと。52」
「ありがとう。ん? シャツだけじゃないのか?」
「いや、だって、……まあ、貰って。買い物付き合って貰ったお礼ってことで……」

兄貴へのプレゼントを買った店で調達したのだろう。革製のパスケースも一緒に入っていた。これも名前が入っている。なまえの名前が隣にあったりはしない。
兄貴がにやにや笑ってこちらを見ている気配がする。なんて邪魔なのだろう。いつか、なまえと二人だけで誕生日を過ごしてみたい。それより、俺も、兄貴のようになまえを抱きしめるというのは許されるのだろうか。
そんなことを考えている間に、なまえが離れてしまったからはっとする。そうじゃない。

「なまえ」
「なに?」
「俺からも、これ」
「え、私は誕生日じゃないけど」
「いいんだ。大したものじゃないし、でも、なまえは好きだと思う」
「ええ? なんかごめんね、ありがとう……」

なまえは俺から受け取った袋を広げ、中身を取り出してぽつりと言った。「あ、エコバック」その言葉は弾んでいたのだが、更に広げてそのエコバックが全貌を露わにするとなまえは口をきゅっと閉じて固まった。俺はそれを見かけた時、運命だと思った。なまえが兄貴のプレゼント選びに夢中になっている間に買っておいた。
何故か、兄貴とリヒトが後ろの方で爆笑する声が聞こえた。

「どうだ?」
「いや、悪いことは、しちゃだめだなっておもう」
「どういう意味だ?」
「ありがとう。使わせて頂きます」

黒いエコバックには白抜きで文字が書かれている。
『日進月歩』俺とおそろいだ。


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20200614:笑うところです。

 

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