20200614/52


一人で勝手に楽しんでいるのはいつものことだったから、遠くからそっと眺めていた。天気が良いと外に出て行って、そしてどうやら、熱心になにかをやっている。犬や猫と転げまわって居るのかもしれない。帰って来ると土の匂いがするし、草花の匂いもする。

「なにしてるんだ」
「えっ」

なまえは「あー」「えーっと」と言いながら視線を泳がせている。話したくないことらしい。
聞き出したいとは思うけれど、なにもないような空き地にいるのを何度か見かけている。だから、たぶん危ないことではないとわかるので、俺は全部教えて貰いたい気持ちを押さえてなまえの頭を数度撫でた。やっぱり、土の匂いがする。

「52」
「どうした?」
「ありがとう」
「俺はなにもしてないだろ」

そのなにもしなかったことが、彼女にとってありがたいことだったのだろう、とは思うが、俺は気付かなかった振りをした。なまえも大概嘘が下手だが、俺もまだまだである。二週間ほど、俺は土と草の匂いのするなまえを抱きしめて眠った。



なまえは上機嫌だった。いや、たいていの場合機嫌がいいのだが、今日は特に楽しそうに出て行った。そろそろ何を楽しんでいるのか教えて貰えそうだと思いながら、空を見上げた。
出て来てすぐは何がなんだかわからなかったが、空があまり明るくない。そのうち雨が降り出すかもしれない。「降り出す前に帰ってこいよ」と俺が言うと、なまえは「はーい」とこちらを振り返って大きく手を振った。良かったのは返事だけで、なまえが帰ってくる前に雨は降り出した。

「……迎えに行くか」

なまえは身一つで出て行った。これは通り雨ではないし、そう簡単には止まないだろう。そうなると、なまえの思い切りの良さから考えるに、びしょびしょに濡れて帰ってくる可能性もある。まだその辺りで雨宿りしていてくれることを願いながらその辺で拾った傘を広げた。
行先がわからないが、確かこちら側に真っ直ぐ歩いて行ったはずで「あ」

「あっ」

遅かった。なまえは雨の降る中を真っすぐこちらに駆け戻ってきていた。俺は即座に傘を投げ捨て前方を確認せずに走るなまえを受け止める。勢いがついていて簡単には止まらず、俺はなまえを持ち上げて二、三度回転する。当然だが濡れている。今すぐ体を拭いて着替えさせなければならないだろう。風邪を引かれたら嫌だ。「なまえ」「52!」着替えろ、と言う前に、ばさ、と頭の上に何か乗せられた。ぽつぽつと雨が降り続いているのに、なまえはそれを歯牙にもかけずに笑っている。

「お誕生日、おめでとう!」

ばっ、と両手を上げたので、俺は呆気に取られたが、そのままなまえを地面に降ろし、傘を拾い上げ、二人にかかるようにしながら、柄の部分を傾けてなまえの額にぶつけた。「痛い」じっと見下ろしていると、途端不安そうにしている。

「ご、ごめんなさい、ちょっと間に合わなくて」
「別に怒ってない。なにしてたんだ?」
「それ、作ってました」

俺はなまえの手を引いて屋根のある場所に戻る。鏡なんて気の利いたものはないので一度頭に乗せられたものをはずすと、最近のなまえと同じ匂いがした。白い花が輪になっている。茎の部分がつなげてあって、なるほど、ここ最近はこれを一生懸命作っていたのだ。
今日の、俺の誕生日の為に。

「誰かに教わったのか?」
「空地に捨ててあって。だから解体して構造を調べました。わかってしまえば結構簡単でしたよ」
「そうなのか」

俺はその輪っかをなまえの頭の上に乗せる。

「ありがとう」
「いつかもうちょっと気の利いたものでお祝いします」
「そんなの気にすることないけどな」
「もうちょっとすごいものを作りたいですねえ」

なにができるのだろう。と今から楽しそうななまえを見ていると、彼女と一緒にいるのはどこまでも正解であったと思える。「52」となまえはもう一度そのプレゼントを俺の頭に乗せた。

「なにがいいですか?」
「これでいいよ」
「来年も?」
「ああ」
「その次の年も?」
「そうだな。これがいい」
「んん」

なまえは少しの間、俺の言葉をどう受け取るべきか思い悩んでいたようだが、すぐに俺が「来年も再来年も変わらず楽しそうにしてるところを見せてくれたらいい」と言っているのだと気づいたようだ。俺には本当にそれで充分だったのだけれど、なまえはどこかやりきれないような笑顔で頷いた。

「うん。わかりました」

俺はなまえの誕生日になにをしてやろうか。そんなことを考えながら、なまえにタオルと新しい着替えを押し付けた。


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20200614:おめでとう…おめでとう…

 

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