海老で鯛を釣れない/大黒、黒野


包み隠さないゲス野郎ぶりは注意せずとも見て取れた。出来るだけ関わり合いにならないようにと生きていたはずが、気付けば会社も同じで同期という立ち位置である。どうしてこうなったのか。

「運命だからじゃないか」

はっはっは、と大黒は笑うが、なまえは笑えない。下心しか見えないコーヒーを受け取り「それで」と無感情に言う。

「飲みに行かないか。今日。帰るのが面倒になったら部屋も用意するしな」
「嫌だよ」
「なんで嫌がるんだ?」
「予定があるから」
「なに? 聞いてないぞ。どういうことだ。説明しろ」

詰め寄る大黒にコーヒーをぶっ掛けてやりたい気持ちを抑える。大黒はこんな調子でどこまでも親しげだが、なまえはできるだけ距離を取ろうと常に大黒と同じ方向に移動している。間違っても飲んだ後どこぞのホテルへ一緒に行くような仲ではない。

「おい、俺という優良物件をキープしながら他の男か?」
「キープしてない。以下ノーコメント」
「通用するわけないだろう。いいからこっちに来て大人しく全部吐け。楽になるぞ」
「楽になる未来なんてひとつも見えないっ!」

廊下でぱたぱたと走り回っていると(大抵の社員は大黒を見て遠回りをするが)なまえは何か人のようなものにぶつかった。油断していた。まさかこのやり取りに横槍を入れてくる社員がいるとは。

「なまえさん」
「おっと、黒野くんちょうどいいところに」
「黒野! 悪いことは言わん。そいつをこっちに引き渡せ」
「はあ」
「黒野くん! 今度焼肉奢ってあげるから!」
「今度っていつです?」
「じゃあ明後日、金曜日」
「おい、お前ら」

黒野はひょいとなまえを覗き込んで鼻先がぶつかるくらいの至近距離でなまえに言う。距離が近すぎるが、なまえはこれには慣れていた。

「二人ですか」
「そうなる!」
「絶対ですよ」
「ありがと!」

「あっ」大黒の前に黒野がぬっと立ちはだかり、なまえはぱたぱたと逃げていった。「缶コーヒー飲み逃げか……」残された大黒と黒野はバチバチと視線をぶつからせる。

「やってくれたな。黒野」
「缶コーヒーでなまえさんは釣れないでしょう」
「お前が来なければ釣れていた」
「そうですか。残念でしたね」

なまえと大黒が、黒野と大黒になっても変わらず、関係の無い社員は大きく迂回して面倒事を避けるのであった。


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20200606

 

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