計算外だった/大黒


「君をモノにしたいんだが、どうしたらいいと思う?」

なまえは一分ほどたっぷり何を言われたのか考えて、そしてそっとその場から逃げようとした。失敗した。腕は掴まれていて、大黒の笑顔は「ここにいろ」と言っている。溜息をつきながら座り直した。
若干の頭痛を感じて外でぼうっとしていたら彼はいつの間にか隣に座っていて、何をするでもなく隣にいると思ったら、挨拶抜きでその質問である。

「まず、ですけど」
「ああ」
「こんにちは、大黒部長」
「こんにちは。遅すぎるけどな」

「それで?」と彼は続きを促す。なまえは頭痛がひどくなっていくのを感じながら考え続ける。質問は、君をモノにしたい。だったか。いくら考えても時間が足らない。

「私はものでは無いので、本当の意味で、ものにする、のなら首とかはねたらいいんじゃないですか。物理的な意味で」
「ははは! なるほどな。なら言い方を変えるか。君もなかなか欲しがりだな?」
「欲しがってません。遠回しに勘弁してくださいと言ってます」
「俺と結婚しないか」

ぞわ、と鳥肌が立った。

「むりです」
「だろう。だから、どうしたらいいか聞いてるんだ」
「……さあ。私が、結婚したいと思うくらい大黒部長を好きになる必要があるんじゃないですか」
「つまり、理由が欲しいと?」
「いいえ。私が、大黒部長をとてもとても好きじゃないと」
「現段階では嫌いというわけだな」
「結婚を承諾出来るほどの好感度はありませんね」
「やはりそれ、その好感度、という言葉は、理由、に言い換えることができないか? 君は俺と結婚するに値する理由がひとつでもあればいいと言っている」
「これは誘導尋問ですね。部長はどうしたらいいのか聞きながら、理由があればいい、と言う結論に引っ張っていこうとしてます」
「人聞きが悪いな。俺はただ告白しているだけだ。俺は君が大好きだ。愛してさえいる。だが、だと言うのに今のところ勝算がない。ついでに言えば見込みもほぼゼロだ。何かこの見込みゼロを百にする方法がないかと苦心している」
「尋問しているの間違いでは」
「なまえは、俺が嫌いか? こうして話している限りでは、君と俺とは結婚しても普通に生活していけると思うんだが。金銭面では不自由させないしな!」
「……」

得意気に笑う大黒を見ていると加速度的に頭痛がひどくなる。体から冷や汗が出てきた。これ以上は話をしていたくない。

「なまえ? どうした、なにかいい案でも、」

大黒がビクリと震えた。なまえが、彼の膝を枕にして頭を投げ出したからである。はあ、と息を吐き出す。目を開けているのが困難で、視界からの情報を遮断した。「なまえ? おいなまえ、どうした?」やっとの事で口を開いて「あたまいたい」となまえは言い、気を失うようにして眠った。
だから、大黒が顔を耳まで赤くして、眠るなまえを見下ろしていた姿は、誰も見ていない。


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20200604

 

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