おとうと/黒野


「ああ、おはよう。優一郎、今から出かけるけどなにか欲しいものある?」

私は一人暮らしをしているのだが、ほぼ毎週、弟が家に遊びに来て泊まっていく。引越し先は明かしていなかったのだが、最近バレて、以前にも増して姉離れが出来なくなっている。

「……姉さん」

今も、身支度をバッチリ整えた頃に起きてきて、私がどこか出かけるようだと見ると眠そうにしていた目の雰囲気がガラリと変わる。そして、私が肩から提げているバッグの紐を掴み「今日は、」となにか無茶を言い出す構えである。

「今日は俺とデートの約束だっただろう。それなのに一人で出かけるのか。俺も行くから待っててくれ」
「いや、友達と遊びに行くって先週から言ってたし、幻覚の話を現実に持ち込まれても困るよ」
「幻覚じゃない。姉さんは昨日俺と一緒にコンビニに行くという約束をした」
「ああ、帰ってきてからね」
「駄目だ。今から行く」
「駄々っ子か……? お土産買ってきてあげるから待ってなさい」
「……」

弟は無言で首を振った。私を足止めするために握られているバックの一部が焼き切れる前にどうにかしなければならない。連れていけばひとまずは解決するが、その後のことを考えると絶対に却下だ。それだけは選べない。お菓子とかアイスとかそういうので誤魔化されてくれたらまだかわいいのだが、いや、かわいくないか。

「帰ってきたらコンビニ一緒に行ってあげるから」
「それはもちろん行ってもらう」
「じゃあそういう事で」
「まだ何も解決してない」

むす、と不機嫌そうに、しかしどこか不安そうだ。私を見下ろす顔に手を伸ばして頬を撫でてやる。犬猫のように目を細めて手のひらにすり寄ってくる弟を見るのは、嫌いではないが、このままではいけない。

「大人しく待っていられたら今夜は一緒に寝てあげよう」
「! 一緒に……? それは、朝まで姉さんが隣で寝ているということか?」
「ということだよ」
「わかった。帰ってきたら一緒にコンビニに行ってそれから姉さんを抱き潰して良いんだな」
「オイ」
「好きだ、姉さん」
「オイって」

「帰ってこい馬鹿」私は弟の頭を引っぱたいてこちら側に戻ってきてもらう。「痛いな」と黒野は叩かれた自分の頭を撫でながらどこか嬉しそうである。困った弟だ。本当に。

「早く帰ってきてくれ。一時間くらいで」
「馬鹿か?」
「口が悪いぞ。姉さん」
「ばーか! じゃあいってきます!」
「いってらっしゃい。何かあったら連絡してくれ。いや、何も無くても……」

また長くなりそうだったので話の途中で家を出た。何時に帰るとかそういう約束はしなかったから、ゆっくり遊ばせてもらうことにしよう。遅くなると「姉さんは嘘つきだ」などとまた面倒くさく拗ねるので、まあ、日付が変わる前までには、帰るとするか。


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20200531:おとーとくろの

 

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