アイスクリーム・シンドローム/52


運命みたいだ、いつも、そう言う顔で声をかけられる。



「……あっ」

声は聞こえていないみたいだ。
こんな方へ来るなんて、買い物だろうか。どういうタイミングで声をかけるか迷っていると、なまえがふと立ち止まる。あの店はなんだっただろうか。確か、最近できた店で。

(アイスクリーム……?)

確かそうだ。俺はそっとなまえに近付いて声をかける。なまえは声をかけるまで俺に気付かなかった。

「なまえ」
「うわ、52」
「うわってなんだ。アイス食べるのか?」
「ん、いや、食べない」
「食べないのか?」
「……」

俺だって伊達になまえの幼馴染をしてきたわけじゃない。この顔は、本当は食べたいけどなにか理由があって遠ざけている顔だ。
理由が聞き出したくてもう一度聞いてみる。もしかしたら、俺が力になれるかもしれない。

「食べたらいいんじゃないか?」
「ひとつ食べきる自信なくて」

それなら、く、と唾を飲み込む時に喉が鳴ったのは聞こえてないと嬉しい。

「……俺と半分なら?」

提案してみると、なまえはきょとんと俺と目を合わせていた。結構大胆な提案をした自負があるのだが、なまえはいつだか俺がプロポーズした時と同じ顔をしている。彼女はいつでも真剣なのだ。迂闊なことは言わないししないことにしていて、ぼうっとしているくせに隙がないから困ってしまう。そういう所がすきだ。

「52と……?」
「嫌か?」

なまえは実はかなりアイスクリームが食べたかったのだろう。いつもより思考時間が短かった。

「いいの? じゃあダブルにして、52ひとつ選んで」
「お前がふたつ選べばいい」
「ううん」

なんでもよかったのだけれど、なまえが頑なにひとつ選べと言うので何が来ても大丈夫なように無難にバニラにした。なまえはやや嬉しそうにもうひとつを悩み始める。こういう時、俺たちは仲の良い恋人のようになる。店の中から見る俺となまえとは恋人同士に見えるに違いない。

「決めた。キャラメルにする」
「わかった」

すっと財布を取り出して店に入ろうとするとなまえが慌てて声をかけてくる。

「いやいや、私が手伝ってもらうんだから52はお金出さなくていいよ」
「奢る」
「いいって」
「よくない、奢る」
「いいったら、大丈夫」
「嫌だ」
「嫌だってことがある……?」

なまえはしばらく考えた後「わかったわかった」と折れてくれた。「次は私がご馳走するから」と言われ、次の約束まで出来てしまえて、アイスクリーム屋様様である。
俺たちは公園でアイスクリームをつつき、まるで恋人さながらの時間を過ごした。犬の散歩をして通り過ぎていった誰もが、恋人同士だと思ったことだろう。
食べ終わると、容器とスプーンをゴミ箱に放り投げて立ち上がる。まだゆっくりしていたかったが仕方ない。

「うーん。暖かくなってきたとはいえまだアイス食べちゃうと寒いね」

手が冷たい、となまえが言うので俺はそっとなまえの方に手を伸ばす。手を繋げば、ちょっとはましだろ、そうさらりと言うはずが、やや狙いが逸れて、手首の辺りに指が触れてしまった。ほそい。「わ」となまえはびっくりして手を引っ込めた。

「冷たいよ」
「わ、悪い」

手は繋げなかったが、なまえはアイスクリームが美味しかったから「ふふ」と上機嫌だ。ひさしぶりに良い時間を過ごした気がしてその横顔を見ると俺は満足してしまった。……いつもこうだといいのだが。


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20200430無限に書きたい

 

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