眠れない夜/ジョーカー


「まだ起きてたのか」
「ジョーカーも」

ぱた、と本を閉じてジョーカーに撫でられる。そのままベッドに潜り込んできて、二人でシーツの中に沈む。いつもの夜だ。ジョーカーが「早く寝ろ。おやすみ」と言うので「おやすみ」と返した。
それでも、一向に眠れる気がしなくてしばらくするとジョーカーの腕から這い出した。そしてまた本を持って小さな灯りをつける。

「そんなに面白ェのか?」
「ううん。難しくてよく分かりません。でも、眠れないから」
「なんだよ。それならそうと早く言え」
「んぐ」

ぎゅ、とまた腕の中に閉じ込められて、持ち上げられて運ばれる。外へ行くらしい。この格好だとまだ寒いのでは、と不安になっていると「もたれていいぜ」とジョーカーは笑った。
言われるままに、首に腕を回して、肩に頭を預ける。なるほどこれならあたたかい。

「ジョーカーは寝なくていいんです?」
「お前が寝たらな」
「ごめん」
「こういうのもいいだろ。たまには」

「そうかな」と私はジョーカーに体を預けながら言う。「そうかもしれない」夜に、赤子をあやしながら散歩をする人を見たことがある。私はその赤子の方みたいだなと思うとやや恥ずかしくなるが、泣き叫ばない分マシかもしれない。いや? 倍以上重いだろうから同じか……?

「なまえ」
「ん?」

ジョーカーは何も言わなかった。呼んだだけらしい。私も今は特別話したいことがある訳では無い。「なまえ」また名前を呼ばれて私は「うん?」と小さく返事をする。それが面白かったのかジョーカーはくつくつと笑うから、私の体にもジョーカーの笑顔の振動が伝わる。

「なまえ」
「なあに」

呼ばれる声が優しいせいで、だんだん眠くなってきた。私からの返事が寝息になるまで、たぶん、そうしていてくれた。


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20200428:眠れない夜の話

 

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