20200314/ショウ、白装束


「なまえは人気者だからな〜、ホワイトデーにかこつけて今頃ぺろっと食べられちゃってたりして!? きゃー!」

などと言って俺をからかったハウメアもまた、等しく、なまえにホワイトデーの贈り物をしたことを知っている。ただ、それは文字通り等しくなので、特別な意味はない。祭りごとに乗ってお返しをする程度には好意的であると、それだけの理由だ。だから呑気に俺のことをからかっていられるのだろう。ほとんど者がそうであり、ごく一部の者は、そうではない。



姿を探して地下をふらついていると、人気のない場所で一人ぼうっと座り込むなまえを見つけた。いいや、ぼうっとしているように見えたが、何かを吟味しているようだ。一つずつ手に取って、確認している。
今すぐその作業を中断させたくて世界を凍らせて距離を詰める。

「なまえ」
「んわっ、ショウくん。いきなりどうやっ……いや、深くは聞かないでおこうかな」
「そうしてくれ」

隣に座ると、案の定贈り物を眺めるのをやめて「どうかした?」と首を傾げた。紙袋に詰まっているのは、もらったお返しの山だ。「大漁だな」と言ってみると「ばれないように配ったハズなのにねえ」と不思議がっている。それだけあれば、食べるのにも苦労するだろうが、困ったとか、大変だとかそう言う言葉は一言も言わずに、ただ「有難いね」と笑っていた。

「……」
「ん?」

ちらりとなまえの前に置かれた紙袋を見詰める。淡い配色の包みや缶、花柄のハンカチから酒瓶、テディベアなど様々だった。その様々な返礼が袋の中に詰められている。すべて、一様に。

「なにか気になるものでもあった?」
「いいや」
「なら、おなかすいたとか」
「違う」
「うーん、あ、お酒はまだまずいと思う」
「そうじゃない」

「なら何かなあ」となまえは腕を組んで考え込んでいる。俺の今の気持ちを言い当てられるはずはないのだが、真剣な両目に見つめられると落ち着かない。全部暴いて欲しいような気も、もし、気付いてしまったとしても、気付かないフリをしておいて欲しいような気もする。
ポケットから、青色の小さな箱を取り出す。
せめて、あの袋に入りきらないような大きさだったら、よかったのかもしれない。

「それは?」
「貴公にやる」
「私に」

なまえは何の疑いもなく俺から箱を受け取り、くるりと手の中で回した。

「開けても?」
「もうそれは貴公のものだ。俺から許可を得る必要はない」
「ありがとう」

する、と紺のリボンを解いて開ける。白い包みを一つ摘まみ上げて開く。「ああ」

「キャラメルだ。美味しそう」

やや疲れた顔をしていたが、上機嫌で笑うところを見てほっとする。嫌いなものではなかったらしい。なまえは丁寧に「いただきます」と手を合わせてキャラメルを口に放り込む。俺はじっと動向を見守り、「ふふ」と笑う姿にどきりとする。

「あまい。ありがとう。ショウくん」
「いいや」

すぐに食べるところが見られてよかった。箱を閉じて俺から貰ったその箱を。

「ん?」

こんなことを言うと他の連中は良く思わないだろうが。そこは墓場であるように思えた。なまえへの想いが積みあがった墓場。好意も厚意もまとめて埋められている場所だ。俺からのものを袋の中に一緒にして欲しくなくて手を掴んだ。
あまりに突然の行動に、なまえは目をぱちくりさせて俺のことを見ている。

「あ、ショウくんも食べる?」
「いらん」

いらない。
欲しいものは、菓子じゃなくて。

「それは、そこには入れてくれるな。頼む」

特別にしておいて欲しくてなまえに言うと、なまえは目を丸くしている。

「入れないよ。ほら、こっちのポケットに入れようと思っただけ」
「そう、だったか」
「そうだよ」

なまえは本当に、俺がそうしていたように白い服のポケットに箱を入れて、「よし」と立ち上がった。

「ありがとう。大事に食べる」
「ああ」

一番大事に食べてくれ。と、きっと、そこまで言えれば完璧だったのだけれど。


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20200313:先月のとは繋がってるふりして繋がってない

 

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