20200314/シンラvsアーサー


自室のドアをノックされるより早く、二つ、足音と言い争いの声が近付いて来たから扉を開けた。誰が来たのかはわかっている。

「シンラに、アーサー?」
「よっし、俺の方が先!」
「チッ……」

またなにかを競い合っているようでシンラはぐっとガッツポーズをした。なまえはなにがはじまったのだろうと首を傾げると、アーサーが気を取り直してなまえの手を掴んだ。きら、と髪の先と目のあたりが光る。この特殊効果はなんだろうか。アーサーのことだから、妖精でも内包しているのかもとなまえは目細めた。

「おはよう、良い朝だな」
「あっ、お前……! なまえさん!おはようございます」

シンラは忙しくアーサーとなまえとを見比べて、その後彼らしく礼儀正しく頭を下げていた。どちらがどう、ということもないが、いつものシンラとアーサーだった。ただ、朝から来るということは確固たる目的があるということだ。

「おはよう……、ええと、今日はなに?」

ああ、そうだった、とシンラは手に持っていた紙袋をばっとなまえに差し出した。
可愛らしいピンクの紙袋だ。中身はきっと菓子だろう。なまえは「ああ」と納得した。ホワイトデーだ。

「先月はありがとうございました! こ、これ! 受け取って下さい!」
「退いてろ悪魔。俺が先だ」
「はあ!? お前こそ退いてろ!」

受け取ろうとしたのだが、アーサーが妨害した為空気を掴む。「なにすんだ!」「俺が先に渡す」「俺だろフツーに考えて!」「なまえだって悪魔からの贈り物が先ではさい……さ、桟橋……?が悪いはずだ」「幸先だバーカ!」これがはじまると長いんだよなあとなまえはあくびをしながら行く末を見守る。じゃんけんとかで決めたらだめなのだろうか。と思うが、そう言えば以前じゃんけんをさせたら余程気が合うのか十分ほどお互いに同じ手を出し続けていたことを思い出す。ぼんやりとしていると、シンラとアーサーはほぼ同時にぐるりと首を回してなまえを見た。

「そもそもなまえさんはヒーローか騎士かで言えばヒーローですよねっ!?」
「バカか? 騎士王一択に決まっているだろう」
「ヒーローだ」
「いいや騎士だ」

ヒーローか騎士かというのはつまりどういう質問なのかわからない。なまえは終わりそうにない二人のやりとりにそこそこ付き合った後、ちらりと時間を確認した。そろそろリミットだ。無限に時間があるわけではない。

「それ、長引きそうなら私、先に朝ごはん作りに行っていい?」

ぎら、と二人は言い合いを中止してなまえにずい、と近寄る。犬か猫なら足元をぴったりくっついてくるくる付きまとっているような状態だろうか。

「手伝います」「手伝うぞ」

同時に言ってはお互いを睨み合う、というようなことを繰り返しながらも、シンラもアーサーもなまえの指示をよく聞いて、朝食づくりの進行には何の問題もなかった。品数は多くないがしっかりと腹を満たす料理が並んで、今度はどちらが多く食べるかというようなことで競争している。ように見えるのだが、なまえの作ったものを味わいたいという気持ちもあるようで。

「くぅ〜、なまえさんの朝飯うめぇ〜!」
「流石、未来の我が妻になる女だな」

と、時折噛み締めながら箸を進めていた。なまえは「それならよかった」といつも通りで、第八特殊消防隊の他のメンバーも極めていつも通りであった。シンラとアーサーが競い合っているのは珍しくもなんともない。
その後も片付けを手伝い、いつになく気合を入れて仕事をして訓練をして、と一日はあっという間に過ぎ去っていった。
ベッドに潜り込むとなまえの穏やかな笑顔が思い出される。

(はぁー……、今日もなまえさんかわいかったなあ……。ん? なんか忘れてるような……)

あまりにもいつも通りすぎてすっかり頭から抜け落ちていた。ばっと体を起こすと、朝、手伝うには邪魔だからと部屋にわざわざ置きに来た菓子の袋。

「あ、ホワイトデー!!!」
「あ」

叫ぶと、アーサーも声を漏らしていた。しまった、とシンラは頭を抱えるが、今日はもう遅い。こんな時間に菓子を貰っても嬉しくないかもしれない。どうしたものか、と考えて考えて……。

「……」
「……」

ばさり、と気合を入れてベッドに潜り込む。
今日はもう遅い。夜中に尋ねては迷惑だ。
だから。

((明日こそ決着を着ける……!))


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20200313:そして冒頭に戻る。

 

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