その現象は伝播する/カリム


フニャ、と情けない悲鳴が聞こえて、ずし、となまえの背にタマキが降って来た。

「重いよ」
「重くない!」

なまえはタマキの下から這い出すと、タマキが脱ぎ捨てたらしい服を拾い上げ手渡す。周囲に人もいるのだが、もうタマキのラッキースケベられは日課になってしまっていて、大して問題にもならない。今日の被害者はなまえか、と言われる程度だ。

「にゃああ!」
「着てってば」

どこにどう引っかかったのか下までどこかに放り投げるので、仕方なく、なまえは自分のコートをタマキにかけて、タマキが飛ばした服を拾いに行く。ささやかではあるが通行人から直で見えないように立って、タマキの着替えが終わるのを待った。

「……お前ら、こんなところで蹲ってたら通行人の邪魔で邪魔だろうが」
「カリム中隊長そのあたりで止まって下さい。今タマキが着替え中なので」
「またか……」
「す、すいません! 今終わりました!」

通りかかったカリムははあ、と息を吐いて、タマキはもう一度「すいません」と頭を下げた。「注意して気を付けろよ」と声をかけてそのまま通りすぎて行く。
なまえはすぐにタマキから自分のコートを受け取る。
なんだか嫌な予感がしてすぐにタマキから離れようとしたのだが、タマキはなまえに用があったらしく、「あ、なまえ」となまえの背を追う。
がつ、と何かにひっかかる音がした。

「アッ」
「エッ、また」

振り返るが、タマキはまだどの服も外れていない。ただ、ここで避けてはカリム中隊長に被害がいくな、となまえは仕方なくタマキを受け止める。
のだが、思いのほか勢いが強く、バランスを崩して数歩後ろに下がる。

「ちょっと、タマキ、」
「うわわわわわ!」

タマキの手が、なまえのシャツを掴んでいた。
そして次の瞬間、なまえはタマキによりシャツをはぎ取られた。
その衝撃で後ろに吹き飛ばされながら、自分のシャツが飛んでくのを見ていた。コート、羽織っておくんだったと後悔する。
転ぶのを覚悟していたのだが、ど、と誰かに受け止められた。

「お前達はまた何を暴れ……て……」
「すいません、カリム中隊長」
「なまえごめん〜!」
「ちょっとまってこっち来ない、わああ」
「にゃあああ!」

今度は、タマキがなまえのスカートを掴んでどこかへ放った。空いていた窓から落ちていくのを見送りながら、なまえはまだ冷静にタマキを制する。

「タマキお願い、お願いだからちょっと動くの待って」
「う、なんでェ」

なんではこっちのセリフだ、となまえは改めて自分の格好を見る。手にはコートを持っていて、シャツとスカートはタマキに放り投げられた。下着だけの姿で、カリムに抱えられている。

「う、う、せめて服だけでも返すから……!」
「動かないでって言ってるのに!」
「フニャ」
「……」

彼女は異次元の何かから攻撃を受けているのでは、と思う。どうしてただ服を渡すだけなのに、こちらに勢いよく頭突きをしてくる形になるのだろう。なまえは全てを諦めて落ち着くまで放っておこうと遠くを見つめた。今度は、布は宙を飛んでいない。
ただ、カリムも咄嗟のことで驚いたのか、バランスを崩して壁にぶつかった。その拍子で、なまえをささえていた手が、するり、と。

「ひゃ、んッ」

ブラジャーの下に滑り込み、カリムはなまえの胸を直で鷲掴む形となった。
ごめんなさい、と叫ぶタマキに、裸同然の格好でカリムに抱えられるなまえ。なまえがいつもより近いせいで、例の匂いも強いし、手のひらは素肌に触れている。

「すいません、カリム中隊長、?」

ぱた、となまえは胸のあたりになにか水滴のようなものが落ちた気配を察知して、自分の胸の上を見る。赤い。斑点。「え」

「―――ッタマキ!」
「はいぃぃ!」
「さっさとなまえの服、探して拾って持って来い!」
「すいませんでしたぁあああ!」

カリムは勢いのままなまえの下着から手を引き抜く「あッ」もちろん度々聞こえるなまえの普段聞かない甘い声も聞こえているのだが、今は記憶領域にしっかり焼き付けるのみにして、自分の服とローブを脱ぎ、無理矢理なまえに着せた。
そして、なまえがタマキにしていたのと同じように、通行人から見えないように廊下に仁王立ちをした。

「あ、あの、カリム中隊長、鼻血が……」
「そなもん一滴も垂れてねえし出てねえよ」

ぱた、と廊下にまた一滴落ちた。
なまえは自分のコートのポケットからティッシュを取り出してカリムに手渡した。カリムは無言で受け取り、適切に千切って鼻に突っ込んだ。


----------------------
20191026:「責任取って責任取るしかねえと思わねえか」「責任って、カリムは元からなまえが大好きじゃないか!」「これを機にもう少し仲良くなってみては?」

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -