vsカリム編09


真っ直ぐな視線が二つ、突き刺さる。
差し伸べられた手を掴むことはどうしてもできない。考えれば考えるほど、簡単にしてしまうことはできなかった。
今のところは。

「この期に及んで、申し訳ないけど」

ああ、人間というのは、同時に二人を見ることはできないんだな、と気付く。順番に視線動かして、カリムと火縄と目を合わせる。私には贅沢すぎる二択だ。どちらも勿体無い。彼らも私でなければこんな事に付き合わされずに済んだだろうに。

「悩ませて、くれる?」

私は自分に呆れて溜息をつく。

「いつになるかわからないけど、ちゃんと答えは出す。もちろん、私の答えを待ってる必要はない」

まだ、私なんかやめてくれないかと思っている私を許して欲しい。でも、そうなったらきっと寂しいと、そんな勝手なことを考えるくらいには。二人共が。

「これが、今答えれる全部。ごめん。せめて必死に悩むから、今は」

好き、なのだろう。
放っておけないと、放っておきたくないと思っている、のだろう。あとこいつら軒並み結婚したいとか言いやがったから普通にハードルがあがる。逃げ道はあまりないが、追い込まれるより前には決めるから何とか。

「今すぐは、」

むりだ。ごめん。
本音を言えば、待っていて欲しい、になるのかな。本当にこんな女のどこがいいのか。桜備大隊長にはああ言ったが聞いてみるのも悪くない。
改めて二人を見ると、二人共が目を見開いて驚いていた。驚くような返事だったか? よくある先延ばしだと思うのだが……。

「な、悩んで、くれるんですか?」

カリムの言葉に、今度は私が驚く番だった。

「俺と、この人の事で、悩んでくれるって、言いましたか?」

カリムが思っていたことは、火縄が思ったことでもあったようで、火縄の体から力が抜けるのを感じる。そう。悩む。私は悩んでみることに決めた。投げないで向かい合ってみることに決めた。

「言った」

残念な宣言をしたことを肯定するため、力強く頷くと、カリムは「ははっ」と笑いながら涙を流していた。真っ直ぐすぎて、受け止めきれなくなりそうだけれど、今度はちゃんとその涙をツナギの袖で拭った。「ハンカチも持ってないのかお前は」と、火縄は、いつも通りだった。



カリムのことは、落ち着くのを待って第一に送っていく事にした。目が赤くなっているし、第八に出入りしていることを知っている隊員は、泣き腫らした目で一人で帰ったら振られたものと思われるだろう。
それは心外だからと第一まで私も着いていく。久しぶりでやや緊張するが、まあ、大したことではない。
と言うのはまあ建前で、言おうと思って、しかし、期待を持たせるのも悪いと思って言えなかったことを話すつもりで隣を歩いている。

「カリムには悪いことした。ごめん」

カリムはまた明るく、暗いものを吹き飛ばすように笑う。

「いえ。俺はすげえ、楽しかったので……、幸せでしたし……」

楽しかった。のは。ほとんどカリムの努力があったからだ。私は何もしていない。つくづく酷い女であると思うのだが、カリムからこちらに放たれる熱量は、二年前と変わらない。いや、若干増したかな。

「俺、今日は、フラれるつもりで来たんです」
「ええ?」
「なのに貴女が、悩んでくれるって言うから」

ああ、火縄も自分ではないと思っていたから二人共があんな顔をしていたのか。

「正直私は、私がカリムか火縄、どっちかの立場だったら、とっくにめんどくさくなってやめてる」
「はは。でしょうね」
「よくやるね」
「しょうがないですよ。向こうはどうか知りませんが。俺はどうしても、貴女がいいんです」
「よくやるねえ……」
「大好きです」
「あー」

なんと言うか、癖のない、メープルシロップのような甘い香りがふわりと香る。そうだったな、と思い出しながら、私は当時と同じように。「知って……」知っているよ、と言おうとしてやめた。

「どうしました?」

私が突然立ち止まるから、カリムも立ち止まってこちらを見る。知っている。カリムが私を好きなのは。あと、その言葉に隠された期待も、私は知っていた。

「私も好きだよ」

この言葉を、待っていたよね。

「へ」
「結局一度も言ってあげてなかったから」
「あの、いや、そんなの、」

また涙が出そうになったのか自分の手のひらで目を押さえて、その後ずい、と私に詰め寄った。ぴ、と人差し指を立てて言う。

「もう一回、言って下さい」
「いや、次言う時は心が決まった時」
「一回も二回も同じですよ」

火縄中隊長には秘密にしますから、お願いします、と引いてくれそうにない。これ級の話をまたしなければ留まらないだろう。ううん。それ以外だと、これしかない。

「あとはあれだ、カリムは本当によく頑張ったね」
「? なんの話ですか?」

久しぶりに、ぽん、と頭に触れる。
相変わらずいい色だ。

「私みたいなのと、よく付き合ってたし、よくもまあまだ好きでいられるなあってね。それは結構頑張らないと無理なことなんじゃないかって」
「そんなことは……」

否定されかける度、もっと早く向き合うんだったなと申し訳なくなる。私の暗い顔を見て、カリムはぎゅ、と口を閉じ、改めて、開き直るように詰め寄ってきた。

「ええそうなんです。だから、労うと思ってもう一回言って下さい」

懐かしい。第一に居た時もそうだった。余りに真っ直ぐで、その癖気の使い方が細かいから、居心地が良くてついついいろいろ許したくなってしまって。これはもう仕方がない。

「……好きだよ。カリムの気持ちには到底及ばないけど」

二回くらいは、誰も罰を当てないだろう。カリムはまた流れそうになる涙を拭いながら子供のように笑っている。

「本当にそうですね……。俺はこんなにも一途なのに」
「……ごめんね」
「冗談です。困らせたいわけじゃ、いや、困らせたいんですけど」

その気持ちを丸ごと全部、わかってあげられる日が来るのだろうか。

「ふ」

難しいことは一瞬後の私に任せて。

「なんだそれ」

心のままに、笑ってみた。


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20200307

 

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