vsカリム過去編end


結論から言えば諦めることはできなかった。
会議や皇王庁への用事で時々見かけるが、声をかけようにも例の幼馴染で初恋の、第八の中隊長がべったりで近寄れない。相変わらずシスターの資格があったりなかったりしているようだが、シスターが正式に配属されてからはもう改めて取る気はないのかそういう噂は聞かなくなった。
離れていても噂は聞こえて来るし、姿も見かける。
ただ、救いは、その第八の中隊長とは何もないらしいことだ。
距離は近いし、なるほどなまえさんの話通りによくいらないような世話まで焼いている。なまえさんならば「面倒だからやめろ」と怒りそうなものだが(定期的に怒っているのかもしれないが)大人しくとても、とても嫌そうな顔をしながら服装を直されたりしている。どうも本当に困っている顔をしているから、きっと恋人とか、そんな関係ではない。
俺はなまえさんが時々そのままにしている寝ぐせだとか、そういうものも込みで見るのが楽しみだったから、直そうと思ったことはない。きち、と直されているところを見るとまあ、あの男の色に染められているようで気分は良くないが、なまえさんの表情を見ると、ああ、どう見てもあれは恋をしている人間に向ける目ではない。
なまえさんの言葉のどれにも嘘はなく、本当に終わった恋なのだ。
つまり、第八には、なまえさんなりの考えがあって行ったことになる。
そう言う話を、聞けばよかったと後悔している。
それから最後に、勢いに任せて、俺のことをどう思っているかも聞いておけばよかった。
ああしたらよかったこうしたかったと、俺は後悔ばかりだが、なまえさんはきっとそういうものは抱えていないのだろう。相変わらず、爽やかというか、さらりとしていると言うか。冷たいけれどやや甘い、そんな人なのだろう。

「やっぱり、好きだ」

ぽつ、と言葉にすると「知ってるって」となまえさんの声が聞こえる気がして笑ってしまう。なまえさんはあんなので、俺とのことは終わらせた気持ちでいるのだろうか。いるのだろう。困ったものだ。俺から行かなければこのまま一生なにもないだろう。
第八の連中が出向に来た時だってあの人は挨拶にすら来ないし、こいつらは毎日なまえさんと一緒なのかと思うとなまえさんの様子を聞くどころじゃあなく睨み付けてしまうし。第八の中隊長は様子見に来ていたがなまえさんはそんな無駄なことはしないし……。これはある意味でチャンスだと思いはしたもののイマイチきっかけを掴めないまま、どんな顔をして会いに行けばいいのかもわからなかったのだけれど。
奇しくも。だ。

「あ、」

第八と協力することに決めて情報交換の為に第八の消防教会に行った時だ。
廊下を通り過ぎるなまえさんと目が合うと、ひら、とこちらに手を振った。あまりに自然だったせいで、頭を下げることもできなかったが。
そして思い出すのは、ストーカーかと言うくらいに付き纏った日々のことだ。

そうだった。俺にはそれしかないんだった。

そのさらりとした態度をどうにかこうにか崩したくて、好きだ付き合ってほしいと毎日毎日。今ではもう毎日とはいかないだろうが、それでも、どうにかしたいならタイミングとか、きっかけとか、まして格好付けようだとか、そんなことではいけない。あの人にこちらを見て貰いたいなら、自分の姿とか、格好とか、そんなものを気にしていてはいけない。
じっとあの日々のことを思い出す。
あの時よりは効果的にできるはずだ。
とりあえず、そろそろあの菓子が食いたくなる頃のはず。第八に行ってしまったから馴染みの店にも滅多にいけないだろう。差し入れたら喜ぶはずで、受け取ったら、何の礼もなし、とはいかないはずだ。その線で行ってみるか。
あの人の気に入りの菓子とか茶を持って、なんとかまた。
どうにか、また。


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20200305:過去編終わり。次あるとしたら火縄猛進編…。

 

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